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Rocky’s report from Shanghai

2023.07.28

Vol.37 上海とモダニズムとの再会。ベルリン国立ベルクグリューン美術館展が開催

文/令狐磊 Rocky Liang

翻訳/サウザー美帆

 この夏、上海でもっとも見応えのある展示といえば、蘇州河沿いのUCCA Edgeで開催されている「モダニズム・ウォーク:ベルリン国立ベルクグリューン美術館展」(2023/6/22〜10/8)です。

Installation view of “Modern Time : Masterpieces from the Collection of Museum Berggruen / Nationalgalerie Berlin” at UCCA Edge.
Courtesy UCCA Center for Contemporary Art.

 今年1月から約4か月間、上海博物館で開催された「英国ナショナルギャラリー所蔵作品展」で、上海のアート愛好家が行列をつくったのも記憶に新しいですが、UCCA Edgeでは、ドイツ生まれの美術商ハインツ・ベルクグリューン(1914-2007)による世界有数の個人コレクションから100点近くを展示。ラファエロ、ゴセット、カラヴァッジョ、レンブラント、セザンヌ、マネ、モネ、ゴッホ、クレー、ピカソ、マティスなど、ドイツ生まれの美術商ハインツ・ベルクグリューン(1914-2007)による世界有数の個人コレクションから100点近くを展示。西洋美術500年の歴史を彩る画家たちの作品はいずれも心を揺さぶるもので、20世紀モダニズムの実験的な傑作に、上海の人々が触れる貴重な機会となっています。

Press Conference & Guided Tour Photos. Courtesy UCCA Center for Contemporary Art.

 ベルクグリューン美術館で行われている大規模な改修によって、コレクションの一部がテーマ別にキュレーションされた形で世界を巡回することになり、日本の東京、大阪、そして中国では上海、北京を含む3都市がこの巡回展の開催地に選ばれました。

Press Conference & Guided Tour Photos. Courtesy UCCA Center for Contemporary Art.

 巡回の3か所目となる上海展は、東京展や大阪展のように作家ごとにセクションが分かれるスタイルではありません。セザンヌの『セザンヌ夫人Portrait of Madame Cézanne』(1885)、ピカソ初期の油彩画『ギターと新聞Guitar and Newspaper』(1916)、マティスの『室内・エトルタInterior, Étretat』(1920)など、100年以上前の作品から時代を追いながら「散策」するように時系列で展示されています。

Paul Cézanne/ Portrait of Madame Cézanne /1885
Pablo Picasso/ Guitar and Newspaper/1916
Henri Matisse/ Interior, Étretat/1920

 マティスやピカソなどと比べると、上海の観客にはまだあまり知られていない画家パウル・クレーの展示も充実しています。ベルクグリューン氏が最初にコレクションしたのが、この波乱万丈の人生を送ったスイス生まれの画家の作品だそうで、氏は後にニューヨークのメトロポリタン美術館に多数の作品を寄贈していますが、現在も70点以上のクレーの作品を所蔵しています。

Paul Klee/ Gingerbread Picture/1925

 上海にやってきた作品の中で僕のお気に入りは『口数の少ない倹約家Scanty Words of the Thrifty Man』(1924)。鮮やかなイエローの肖像画。クレーが北アフリカを旅して得た色彩感覚と、音楽一家であった彼自身のDNAが組み合わされ、独自の芸術言語とユーモアのセンスを発展させた作品です。

Paul Klee/ Scanty Words of the Thrifty Man/1924

 僕にとっての「モダニズム・ウォーク」は、美術を巡るだけでなく、時間と空間の対比を感じるものでもありました。ベルクグリューン美術館のガブリエル・モントゥア美術館統括責任者はこのように語っています。「作品は年代順に厳密に並べました。鑑賞者を多層的な時間への考察へと導くことを意図しています。例えば、1920年代のクレーの幾何学的抽象画は、ピカソやジョルジュ・ブラックのキュビスム作品を鑑賞した後に見たほうが理解しやすいのです」

Georges Braque/ Still Life with Pipe (Le Quotidien du Midi)/1914

 中国においてモダニズムの影響は遅れてやってきました。伝統的な文学や芸術から乖離した前衛的な性格を持つモダニズムは、19世紀後半から20世紀半ばにかけて西洋で生まれました。しかしこの時期、中国は激動の時代の真っ只中。中国でモダニズムの影響を受けた画家は、林風眠(Lin Fengmian 1900〜1991)、常玉(Chang Yu 1901-1966)、趙無極 (Zhao Wuji 1920〜2013)などがいますが、いずれも知る人ぞ知る存在でした。

 一方で興味深いのは、上海は世界的にモダニズムが隆興した時代に発展した都市ということ。上海ではこの時代に建てられたモダニズム様式の建築物が今も数多く残されています。そういった側面を考えると、今回のモダニズム展は、半世紀の時の流れを経た後の、都市とアートの再会でもあったのです。

Installation view of “Modern Time : Masterpieces from the Collection of Museum Berggruen / Nationalgalerie Berlin” at UCCA Edge. Courtesy UCCA Center for Contemporary Art.

UCCA Edge
北京にあるUCCA(ユーレンス現代美術センター)の上海館。2021年5月オープン。上海市静安区の複合施設「EDGE」内の3フロアと屋外テラスを含む5,500平米のアートスペース。空間設計は建築ユニットSO-IL(ジン・リウ&フロリアン・アイデンバーグ。アイデンバーグはSANAA出身)。上海館のみの特別展や他都市のUCCAの展示の巡回展、国内外の著名なアーティストの質の高い展覧会を開催している。
https://ucca.org.cn/en/exhibitions/ucca-edge/

All photos of works are from Museum Berggruen, Nationalgalerie – Staatliche Museen zu Berlin.

令狐磊 Rocky Liang

クリエイティブディレクター/編集者

上海の出版社Modern Media社が発行するカルチャー誌『生活LIFE MAGAZINE』『週末画報Modern Weekly』などのクリエイティブディレクターを務める。同時に文化とビジネスの新しいスタイルの融合を目指す文化力研究所の所長として『花椿』中国版の制作を指揮するなど多方面で活躍中。

サウザー美帆

編集者/翻訳者

元『エスクァイア日本版』副編集長。上海在住を経て、現在は東京を拠点に日中両国のメディアの仕事に従事。著書に日本の伝統工芸を紹介する『誠実的手芸(誠実な手仕事)』『造物的温度(ものづくりの温度)』(中国語、上海浦睿文化発行)。京都青艸堂の共同設立者として中国向け書籍の出版制作にも携わる。