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Rocky’s report from Shanghai

2022.11.28

Vol.29「ホテル・エウロトピア」      永遠に飽きない都市をデザインで再現

文/令狐磊 Rocky Liang

翻訳/サウザー美帆

 北京や上海から飛行機で3時間ほどの中国西部の都市、成都に約1年ぶり訪れました。ここでは常に普通とは違う何かに出会えます。

 SNSで拡散されていた「ホテル・エウロトピア(Hotel Eutrobia)」という不思議な展覧会のことが気になって、市街地から車で1時間近くの会場に足を運びました。会場はいくつかの人工湖がある郊外の庭園都市の中に新しく開発されたエリア内にあり、そのエリアは以前、馬小屋として使用されていたことから「厩MEWS」という名が付けられていました。

ショップスペース
ショップスペースに置かれたフリーペーパー

 この「厩MEWS」の最初の展覧会が「ホテル・エウロトピア」で、イタリアの作家イタロ・カルヴィーノの小説「見えない都市」(注*おとぎ話の世界そのままの都市、連続都市、無形都市などさまざまな空想都市を描いた幻想小説)に登場する街エウロトピアがモチーフになっています。この街では人々が生活に飽きたらいつでも新しい都市に移ることができ、永遠に新鮮な気持ちでいられるのです。

 本展にはミュージシャン、ブックデザイナー、フレグランスデザイナー、菓子職人、チベットファッションデザイナー、ランジェリーデザイナーという6人のクリエイターが参加。カルヴィーノの描いた世界に呼応して、五感に関係する6つの不思議な部屋を制作しました。

視覚ルーム
聴覚ルーム
聴覚ルーム
嗅覚ルーム
知覚ルーム
味覚ルーム
触覚ルーム

 パブリックスペースにも迷路のような隠し扉、変化する複数の光などが配され、訪れる人がパラレルワールドの扉を開けるような新鮮な気持ちに満たされるデザインになっています。カルヴィーノは著書の解説で「我々の都市生活は危機の瞬間に近づいています。この物語は住みにくくなった都市の中から育まれた、ある種の夢なのです」と記しています。それを体現するかのような空間が次々と現れます。

 

不思議な扉に囲まれたパブリックスペース

 主催者のa7CreatorLabは、デベロッパー内部のクリエイターチームで、このプロジェクトではIP展示、コンセプトレストラン、デザインブティックなど革新的な商業空間も実現。エウロトピアという仮想の都市を現実に置き換える想像力と洞察力に感心させられました。今後、展覧会は2023年1月8日まで続き、レストランは成都の個性的な飲食ブランドが交代で登場し、展示に合わせてメニューをつくるなど、飲食のオープンステージとして生まれ変わる予定です。

レストラン

「厩MEWS」のディレクターであるHe Meng氏は、この展覧会の話題がSNSで急速に広まったことを受け、こう言っていました。「アクセス数が目的ではないが、こういった新しい体験はオンライン社会の通貨のようなものだね」

 コロナ対策もあって海外に行くことがままならない中国では、あたかも中国ではないような場所でのリアルな体験が、SNSでの盛り上がり、若者市場のトレンドになっています。僕としては、このユニークなバーチャルなホテルを実際にオープンして、デザインホテルというものの固定概念を刷新してくれることを期待しています。

夜にライトアップした外観

令狐磊 Rocky Liang

クリエイティブディレクター/編集者

『生活LIFE MAGAZINE』など数々のカルチャー誌の編集長を歴任。現在は上海『衡山・和集』『方所 上海浦東店』など文化発信地的な書店のクリエイティブディレクターも務める。同時に文化とビジネスの新しいスタイルの融合を目指す文化力研究所の所長として『花椿』中国版の制作を指揮するなど多方面で活躍中。

サウザー美帆

編集者/翻訳者

元『エスクァイア日本版』副編集長。上海在住を経て、現在は東京を拠点に日中両国のメディアの仕事に従事。著書に日本の伝統工芸を紹介する『誠実的手芸(誠実な手仕事)』『造物的温度(ものづくりの温度)』(中国語、上海浦睿文化発行)。京都青艸堂の共同設立者として中国向け書籍の出版制作にも携わる。