Rocky’s report from Shanghai
2022.10.26
Vol.28 世界のハイブランドも注目する海辺のリゾート、アランヤ
文/令狐磊 Rocky Liang
翻訳/サウザー美帆
ルイ・ヴィトン2023春夏メンズコレクションのスピンオフショーが、9月16日、河北省秦皇島市北戴河のリゾート、阿那亜黄金海岸社区(アランヤ・ゴールドコースト)で開催されました。昨年11月にメンズ部門のアーティスティックディレクター、ヴァージル・アブローが41歳でこの世を去った後の最初のコレクションで、この日発表された全82ルックのうち10体は今回のために新たに用意されたもの。テーマは6月にパリで発表されたときと同様「拡大された遊び場」です。
海岸に現れた砂の城や人型、花型などの巨大オブジェの間を縫うようにしてランウェイが設置され、ショーのオープニングには世界的に有名な映画監督ジャ・ジャンク(賈樟柯)とウェイ・シュージュン(魏書鈞)による映像作品『Mirage』が上映。中国の人気インストゥルメンタルバンドSleeping Dogsの演奏もありと、まさに文字通り「拡大された遊び場」がさらにスケールアップした内容でした。
また、このショーの翌週には、ヴァレンティノがPink PPコレクションをテーマに世界的に展開している建築プロジェクトが同じ海岸で行われ、ここに建てられている「海辺の礼拝堂」がピンク色に彩られました。
このようなパリの高級メゾンの画期的なショーが北京や上海でなく、人口13万人の北戴河のアランヤというリゾートで行われたのはなぜでしょうか? ここは人口7万人ほどながら国際的に知られるカンヌのような場所と捉えてもいいかもしれません。
アランヤは中国各地に革新的でアーティスティックな複合都市を築いているデヴェロッパーで、その名前はサンスクリット語の“静寂な場所、自分を見つける場所”を意味する言葉に由来します。北京から約300km東の海岸沿いに位置するここ北戴河のアランヤは、富裕層のリゾートでもあり、建築家のドン・ゴン(董功)設計による「最も孤独な図書館」「海辺の礼拝堂」、Neri&Hu建築デザイン事務所設計による「アランヤ・アートセンター」、OPEN建築事務所による『UCCA沙丘美術館』、ジャン・ジャージン(張佳晶)設計による犬も一緒に泊まれるホテル『犬舎』など、先鋭的な建築物が集まっていることでも有名です。日本人建築家の青山周平による書店やスイーツショップもあります。
また、音楽、演劇、映画、建築、デザインなどさまざまなジャンルの人々による文化的コミュニティがあり、大規模なフェスティバルが行われたり、有名なコンテンポラリーダンスのスタジオが、海辺で24時間続くダンス作品を制作するなど、クリエイターたちのユートピア的な場所としても注目されています。
今回ルイ・ヴィトンは、ビーチでショーを行っただけでなく、ブランドコンセプトである“旅”をテーマに、アランヤの街自体にも入り込みました。公共交通機関はブランドのメッセージで覆われ、今年のヴェネツィアビエンナーレに登場したニューススタンドも2つの広場で再現。トラベルガイドを販売し、ヴァージル・アブローの作品集も限定発売されました。また、ペインティングされた映画館ではショーのオープニング映像作品『Mirage』が上映され、中国のコーヒーブランドMannerとのコラボで、特別なヴィトン・カップも制作されるなど、いろいろと話題になりました。
コロナ以前の2019年まで、ここには毎年100万人以上が訪れ、ホテル事業など全体を含めると地区の総利益は4.8億人民元(約96億円)に達しました。ファッショナブルな人々からの注目度も高く、中国初のグローバルブランド「UMA WANG」、中国人デザイナーの服のセレクトショップ「Dongliang」、成都発のセレクトショップ「hug」など、中国の感度の高いショップが既に続々とアランヤに出店しています。今後は多くのインターナショナルブランドもオープンし、本格的にカンヌのような国際的な海辺の街になっていきそうです。