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Rocky’s report from Shanghai

2022.02.28

Vol.20  深圳から新しい波がやってくる

文/令狐磊 Rocky Liang

翻訳/サウザー美帆

LOUIS VUITTON &展の会場と高層ビル

 ある日の夜、深圳海岸にある「深圳人才公園」を歩いていると、“イノベーションとは人才なり”と刻まれた石碑がありました。それは深圳が「イノベーション・シティ」として発展することを理想としていることの表れです。その背後に輝くのは延々と連なる高層ビル群。深圳には超高層ビルが実に223棟もあり、それはアメリカの超高層ビル発祥の地であるシカゴの約2倍の規模。2025年頃には300棟を超えると言われています。
(注:超高層ビル=ここでは150mを超える高さのビルを指す)

LOUIS VUITTON &展の会場と人才公園
LOUIS VUITTON &展の会場と高層ビル

 僕が深圳のこの公園を訪れたのは「LOUIS VUITTON &」に参加するためでした。これは創業以来クリエイティブな人々との交流やアーティストとのコラボレーションを重ねてきたルイ・ヴィトンの、160余年におよぶ歴史をたどるエキシビションで、中国本土の都市では初開催。この展覧会に合わせて、ブランドのコラボレート・フォトグラファーである馮立(Feng Li)と地元の新世代のアーティストを招いての対談を、僕が進行することになったのです。

深圳の「LOUIS VUITTON&」展

 僕たちは「南で次の波を待つ」というテーマで対話をしました。中国文化において「南」というのは、地理的な意味を超えた言葉です。参加アーティストの方迪(Fang Di)は、このように語りました。「中国の南はアジアのモダニズムの実験場で、グローバリゼーションの過程で中国が最初に開拓した場所。ここの生活環境とイノベーション精神には独特のカラーがあります。かつて深圳は製造業の拠点として、安価な労働力の流入や移住が行われましたが、現在は広東・香港・マカオのベイエリアと高度に融合し、産業も発展しました。南と南との結びつきは先進的で奥深いものがあります」

対談イベント風景

 深圳といえば通信機器大手のファーウェイ、ドローンの世界シェア7割を誇るDJI、中華圏最大のSNSのWeChatを運営するテンセントなど、世界有数の企業を創出し、ハイテクとイノベーションの街として知られていますが、実は今回のルイ・ヴィトンのように、北京や上海ではなく、あえて深圳のような新興都市で大規模な展覧会を開き、将来の消費市場を育てようとする高級ブランドは、まだ多くはありません。以前から香港特別行政区の政策で、深圳の人々は簡単に香港と行き来することができたので、多くの人は高級品は香港で購入するという状況で、深圳のハイエンドな消費市場は、香港の陰にずっと隠れていたからです。

 それゆえ深圳では百貨店ビジネスも成功しにくく、2012年に約10年間営業していた西武百貨店深圳が撤退しています。5年くらい前までは、ブランド品のショッピングモールといえば、2004年オープンの羅湖区の「万象城」だけでした。書店と百貨店を複合したスタイルの台湾の「誠品生活」は、2020年12月に閉店しました。こういった状況は、GDPにおいて中国第3位の都市というポジションと明らかに一致しません。

深圳万象城

 政府の公式発表によると、2021年の深圳市のGDPは3兆元(約54兆円)を突破し(前年比6.7%増)、住民1人当たりの可処分所得は7万847元(約127万円)で9.2%増。もちろん、この数字はお隣の香港の1人当たりの可処分所得31万9,432元(約574万円/2020年)と比べるとまだまだ低いのですが、住宅の価格や物価の比率から考えると、深圳の中間層はかなりの購買力を持っていることがわかります。

 そして今、深圳は新たな消費の時代に突入しています。深圳のデベロッパーは、さまざまな小売ブランドを深圳で育成し、将来それを他の都市に輸出することを目指しています。例えば先に挙げた2004年オープンの「万象城」は、都市型総合商業施設として、すでに北京や上海にも展開されています。

 商業街区+ショッピングモールというスタイルで2017年に南山区にオープンした「万象天地The MixC」。2018年オープンの「深圳湾万象城」は、周辺に高級マンション群を従え、深圳初のドルビーシネマやVIPホールを導入、ハイエンドな人々の生活ニーズに応える内容。昨年末には、深圳の西海岸に位置する新興エリア前海に、日本人デザイナー片山正通氏と彼のデザインチームWonderwallによる「万象前海QIANHAI MIXC」が新たに完成。ここは “生活の美学”を核に、Quality Life、News Life 、Art Lifeを軸とした食・生活・アートの3つの異なる空間を縦につないだ片山正通氏のエコロジカルで斬新なデザインが注目を集めています。

深圳湾万象城 photo by 彼得猫
前海万象 photo by 彼得猫

 今後は中国最大の売り上げを誇る百貨店SKPが深圳に進出することがすでに決まっています。それは市政府の開発計画にも記され、香港資本のデベロッパーも深圳に狙いを定めています。今後、深圳は高級ブランドなどの消費においても、南からの巨大な波を起こす都市になりそうです。
 

令狐磊 Rocky Liang

クリエイティブディレクター/編集者

『生活LIFE MAGAZINE』など数々のカルチャー誌の編集長を歴任。現在は上海『衡山・和集』『方所 上海浦東店』など文化発信地的な書店のクリエイティブディレクターも務める。同時に文化とビジネスの新しいスタイルの融合を目指す文化力研究所の所長として『花椿』中国版の制作を指揮するなど多方面で活躍中。

サウザー美帆

編集者/翻訳者

元『エスクァイア日本版』副編集長。上海在住を経て、現在は東京を拠点に日中両国のメディアの仕事に従事。著書に日本の伝統工芸を紹介する『誠実的手芸(誠実な手仕事)』『造物的温度(ものづくりの温度)』(中国語、上海浦睿文化発行)。京都青艸堂の共同設立者として中国向け書籍の出版制作にも携わる。