『花椿』中国語版の2号目も刊行し、中国国内でも配布がスタートいたしました!『花椿』中国語版の制作にご協力いただいている、上海のクリエイター集団「文化力研究所」の代表で編集者の令狐磊(ロッキー・リアン)さんが、中国でいま注目のアートやカルチャーについてお届けします。
4月の中国の清明節の連休中に、ある展覧会の行列にふと並んでしまいました。外灘金融センター内のアートセンターで開催されていた「安藤忠雄:挑戦」展です。その当日券を購入する行列は遅々として進まず、係員によると入場まで最低でも2時間はかかるとのこと。そこで僕は列から外れてVIP用の年間入場券を400元(約6600円)で購入。これでこのアートセンターのすべての展覧会を見ることができます。当日券が120元(約1980円)なので、かなりお得です。
多くの人々に120元を払う価値があると思ってもらうために、展覧会にはさまざまな趣向が凝らされていました。安藤忠雄のクリエイションの歴史に加え、重要なプロジェクトの大きな建築模型が多数展示され、2つの感動的な作品「光の教会」と「水の教会」を縮小した空間もありました。2017年に「光の空間」「明珠美術館」(上海)の竣工という大きなイベントもありましたが、今回の展覧会は、近年中国で行われた安藤忠雄の展覧会の中でも最大規模のものです。
会場の外には青リンゴの彫刻もあり、そこにそえられた彼直筆の「永遠の青春」という文字を見て、2003年に雑誌編集者として、日本の外務省が招聘するツアーで日本を訪れたときのことを思い出しました。当時、日本の担当者から「何を見たいか?」と聞かれ、僕は迷わず安藤忠雄の建築を挙げ、淡路島の「本福寺水御堂」と「淡路夢舞台」、大阪の「光の教会」など、いくつかの作品を見てまわりました。その後、建築雑誌『a+u』中国版によるツアーにも参加し、更に多くの安藤建築を堪能しました。当時、彼の名前は中国ではまだ建築デザインの世界でしか知られていなかったので、これほど多くの一般の中国人がお金を払ってこの展覧会を見に来るようになるとは、そのときは思ってもいませんでした。
中国では2008年から始まった政府の政策によって、博物館、記念館、美術館など公立の文化施設の約90%が無料開放されています。チケットを買う必要のない展覧会が多数ある一方で、上海では有料の商業ビジネスとしての展覧会が多く開催されています。2019年~2020年の藝倉美術館でのボブ・ディラン展は150元(約2480円)。2020年の龍美術館でのクリスチャン・ディオール展は、ブランド主催の展覧会でありながら70元(約1120円)。商業ベースの展覧会でも、上海当代芸術博物館のような公営の美術館で行われる場合は少し安くて、例えばパリのデザインユニット「M/M Paris」の展覧会は60元(約990円)でした。ここで挙げたような展覧会は、オープニング時や週末には行列ができますが、多くの人は話題性のある展示を見るために行列に並ぶことを厭いません。SNSでシェアして自慢できるような展覧会であれば、行列が長ければ長いほど達成感も大きくなるからでしょう。
2014年に上海の目抜き通りの淮海路にあるショッピングモール「K11」の地下スペースで、チケット100元(約1650円)の展覧会が開催されました。そこで人々は「睡蓮」をはじめ、通常なら美術館でしか見られない本物のモネの作品を間近で見ることができました。それは上海のモダンな商業施設で国宝レベルの文化遺産的芸術作品を扱った最初の美術展でした。来場者数は40万人。開催期間中の商業施設の売り上げは通常の20%増。この「K11」のモネ展が、上海の商業ビジネスとしての展覧会ブームの発端になったと思います。
もちろん高い利益を上げる展覧会もあれば、成功しなかった展覧会もあります。しかしいまの上海では、映画を見るためにチケットを、地下鉄に乗るためにチケットを買うように、ハイレベルの展覧会にお金を使うことは、もはや常識になりました。お金を払わなくても見られる展覧会は、逆に人があまり集まらないということもあります。クオリティの高い展覧会が数多く行われるようになった上海では特に、人々のアート&カルチャーに対する見識も深まり、価格ではなく展示内容をより重視するようになっています。
(*1元=16.5円で換算)
場所:衡山和集(上海市衡山路880号衡山坊内)