キーンと静かな部屋からベランダに出ると
街の音が聞こえてきて安心した
はぁ、良かった。
生きているのは私だけじゃなかった。
生温い風と、洗濯物の香り
遠くに見えるビルの赤いあかい光
鼻の奥がツンとすくむ
部屋に戻るのはなんだか寂しくて
働きつづける光たちをじっと見つめる
点滅する赤、点きっぱなしの赤
ブランケットを干した手すりにもたれたから
少しシャツが湿ってしまった
洗濯物の香りを惜しみながら部屋にもどる
さっきよりもやわらかいベッドで
遠い光につつまれながら
シャツを脱ごうと思っていたけど
ふんわり身体がかるくなっていく
ちかちか、ぴかぴか
まだ、優しく光っている
選評/大崎清夏
ブランケットも夜も私も、そのぜんぶが洗濯されて、乾くのをゆっくり待ちながら湿った空気にそよいでいるような、うれしい詩だなと思った。
夜のベランダで、密閉度の高い部屋に閉じこめられていた身体にはすこし隙間ができて、呼吸しやすくなる。暗さが皮膚感覚を昼間よりすこし研ぎ澄ましてくれて、私たちは風や匂いや光の明滅を、身体のすみずみで受けとる。
やさしくて小さな、それら動くものが身体に流れこんでくるときの、穏やかさや気持ちよさ。自分以外の誰かや何かが生きていることを知る安心。淡々とした行の運びに、その静かな悦びがていねいに描かれている。流れこんだものを受けとった身体が明滅しながら乾いてゆく締めくくりも、やっぱりうれしかった。