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今月の詩

2019.12.01

変な感じ

詩/セロリン

想像力が豊かですね、と褒められました
舞い上がりました
私は人生の達人になる人なんだと
記別を与えられたような気がしました
いろんな壁を達人の技で乗り越えて
その名人芸を披露する姿を想像しました

感受性が高いですね、と驚かれました
飛び上がりました
私は世界の秘密を知ることになるんだと
コソコソ話の練習をしたりしました

でもなんか変な感じです
私が感じることを感じない人が
どんな感じなのかが
いまいちわからないのです
とても変な感じです

選評/文月悠光

大げさな歓び方と、ふと立ち止まってみる姿勢が愛らしい作品です。〈人生の達人〉〈記別〉〈達人の技〉〈名人芸を披露〉とイメージの近い言葉を重ねながらも、その意味合いが微妙にずれていく様がユーモラスで、巧みな遊び心を感じました。
誰もが世界を等しく「感受」する中で、感じ取りやすい人と、感じにくい人の差がはっきりと出てしまうことがあります。どちらが良い、ということはなく、それぞれの感じ方があるだけです。
私も「感受性」という言葉に引っかかることがあります。多くの場合、「感受性が豊か」とは他者が人に与える称号です。けれど本当のところ「その人が世界をどう捉えているか」は誰にもわかりません。不思議です。結局「感受性」の有無は、その人らしく表現する術を持っているか否かの違いでしかないように思うのです。
他者でもある読者に、詩の言葉を手渡すことは、不毛な行為かもしれません。私は詩を書きながら、想像を巡らせます。自分と似た、あるいは異なる感覚を抱きながら、胸に溜めている人たちのことを、いつも。その一人一人へ言葉が届くことを願います。