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今月の詩

2019.11.01

詩/水面

だから何?

風がびゅうびゅう吹いてるのをきいて

胸がぎゅうとしたから、何?

バスの車窓から遠くなる故郷の道が

夕陽のオレンジに染まっていったから、何?

泣きそうになったから、何?

そんなことに構ってられんわ

私がいう。

いいんよ、いいんよ

わたしはいう。

胸がぎゅうとなれば、泣きそうになれば

なっていいんよ

何でもいいんよ、そうなんやろ。

そんなに大人にならんでいいやん

何でも、私が思うこと
わたしはうけとめてあげる

いなくなった誰かのかわりに

わたしは私の隣にいる

選評/高橋源一郎

そんなことに構ってられんわ

その通りである。そんなことに構ってられんわ、だ。よくいってくれたよ、「水面」さん。そういえば、最初にこの詩を読む時、もしかして、「隣」さんの書いた「水面」かと思ったりする人もいるかもしれない。だって、「隣」はなにかの隣に、つまりすぐ傍にあるもので、「水面」には、そのもの以外の傍にあるものが同時に映っているからだ。早い話しが、兄弟みたいなものですよ、「水面」と「隣」は。そういうわけで、この詩を読むということは、詩人の名前と詩のタイトルの違いなんかに構ってられんわ、と思うことなのかもしれない。それにしても、いいことばだよね、「そんなことに構ってられんわ」って。それでもって、この詩に中にうごめいていることばたちは、みんな、「そんなことに構ってられんわ」って感じなんだよね。それでいいのだ。