探しているといわれたときから
私ではないか
と
思っていた
呼ばれたわけではないけど
街中で
ふと
立ち止まってみた
爪の先のマニキュアが光っていた
手を伸ばした
前にも
後ろにも
風が背中を押した
もうすぐ着くと
言われた気がした
選評/文月悠光
素晴らしい詩はときに思い込みから生まれる。「私ではないか」。ありえない予感がふくらみ、立ち止まる。風の背に触れて、自分のいる場所を問いかける。私が別の誰かであった可能性を思う。爪先の色まで確かめてみるが、まだ実感は降りてこない。「もういいかい」も「まあだだよ」も聞こえない。探し求めているのは、きっと私自身。もうすぐ私に私が追い着く。風に教わりながら、行き着いてみせよう。