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今月の詩

2023.06.17

えり子を知りませんか

詩/向坂くじら

えり子さんはもういませんよ。
やあ けっこう前。靴履いて 出ていくところ見たけど。
ヒールのうしろに指で 中指で ね こう。そ。履いて。
いつもさあの子ヒールでしょ。こんな高い。こんなとき。
も? ってときもヒール。バーベキューのときとか。
靴べら使って ってゆんだけど。いいです。って。
靴 だめになるよ ってゆんだけど。いいですいいです
っていうの。みんなつかってつかって てゆんだけど。

帰り道めっちゃ暗いじゃん。
でなんか女の人が前にいたのね。けっこう背高めの。
で女の人前にいるとちょっと気つかうじゃん。怖がらせ
たくないし。だからこ つけて つけてつうか ついて
きてませんよ みたいなのを見せたいじゃんね。ね。で
追い抜きたいわけ。で昨日じゃんめちゃ水たまりあって。
でさ後ろから近くで追い抜いたら逆にめちゃ怖いでしょ。
だら追い抜くけどあんま近づかないけど水たまりよける。
みたいな。だるともったけどぱぱっといこうともうわけ。
たらなんかおかしいわけ。その人がさたぶんさ わざと。
わざと水たまりばっ かり歩いとるわけ。やわざとだよ。
わざとじゃなきゃおかしいよお。もうスニーカーとか
べしょべしょなってるわけ。おかしいでしょマジで。

いいお母さんだとーもうよ。
やあ。あん。つもニコニコしててね。身ぎれいしてるしね。
こっなスカート履いてね。すらあとして。
班の仕事なんかもしゃきしゃきってねえ。
若いからあ。えりちゃんね。頼りにされちゃってね。

蹴ったんですよ。
なんかもう忘れちゃったな。でもお客さんで。赤い財布。
ときどき来てたよ。日によってだけど。ね。おべんとはね。
もいないバイトの子と言い合いなって。急に があん。
ってカウンター蹴られてね。びっくり。びっくりだけ。

向かいの席だったよ。
でも話さなかったな。結婚式て 丸いテーブルでしょ。
えり子 ちゃん もともとあんまね。知らないし。
向かいだといちばん 話さない ん なんだろ。
サンダル履いてた。できれいなネイルしてた。
結婚式 でサンダルてめずらしいね。てなったよ。

ゆうれいは足をもたないというが

すごい覚えてます。
えり子ってちょっと ん めだってたから。体育館。
あるじゃないですか。集まったりする。たいくずわり。
でみんな座るんですけど。背の順ですかね。そいで。
えり子は後ろの方だから。あんまみんな見てなくて。
先生とかもなんか見てなかったぽくて。わかんない。
修了式かなんかだったかも。そこでえり子だけあぐら
かいてたっぽいんですよね。なんかそのことでえ。へ。
すごい怒られたらしい。伝説みたいなってました。

みんな踏んでいくわけ。
軍手をね。で昔からなんだけど 軍手。片っぽだけ。
落ちてるでしょ。で中身入ってたらどうしよう。てね。
想像しちゃうわけ。でみんな踏むからこあいこあいと。
でもえりさんだけは避けてて わ いい人だあと思って。

ほんとうははんたいに

一個だけ心配だったのが。
手も足も深爪で なならちょっと血が出てるみたいな。
えりだいじょうぶって聞くけど。うん うんみたいな。

秋なるとどんぐり踏むの好きって言ってた。やばくない。
やだってわざとどんぐり踏む人いないでしょ。どんぐり。

いなくなったものには
足だけが残るらしい

えっちゃんて器用だよね。足の指でペンとか拾っちゃうし。

スカート履いてるとこ。ましてドレスなんて。想像できない。

むかしバレエやってたでしょ。お花の茎みたいに細いでしょ。

ストッキングから膝のはみ出た膝の毛。指でずっと抜くんです。

リレー選手いつもだったから。それでうらやましがっちゃって。

たまったもんじゃないよ びんぼゆすり。つながってる机だぜ。

それなに? むし? ってきいたら 水虫のくすりですって。

そえば 聞いたことないかもしれない。えり子の足音って。

もうなにもいない
濡れた砂のうえに

足あとがくっきりと残っている
握りしめるような 五本指の
はだしのあと

レジ並んでるとき 三拍子とってる人いたよ。つまさきで。

波がなんかい寄せても
ふかぶかと
消えることのない