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今月の詩

2023.06.16

見せてあげる

詩/向坂くじら

五月の昼ひなかは
頭のてっぺんに
なにか あたってくる
すでに散りおわった花の
萼か蕊か よくわからない
褪せたみどりの破片のようなものが
新しい芽に押しのけられるようにして
ぽろぽろと落ちてくる

思い出を追い越して花の湧きだす四月が
生まれはじめる季節だとするのなら
ここはちょうど 死にはじめる季節
その最中であるらしい

いつか知り合いのおばさんが
豆菓子をつまみながら
わたし死ぬのが怖いんですよ
と ぽつりといったことがある

父にそうやって話したらね
見せてあげるっていうんですよ
おとうさんが先に死んで見せてあげるから
大丈夫だよ っていうんですよ

わたしたちも豆菓子を持ったまま
しばらく なにも言わなかったのだったが

つぎつぎに降ってくる
萼やら 蕊やらを浴びながら
このやわらかな落下は
もしかしたら そうか
見せてくれているのかもしれない

道路にはハナミズキが乾き
そばで枇杷の実が腐ってゆく
死ぬことの烈しいやさしさ
うすみどりの無音

夜は大降りの予報で
未明には止むという
おばさんも
おばさんのおとうさんも
まだ生きている

あしたには
葉がいっせいに噴きだすだろう