五月の昼ひなかは
頭のてっぺんに
なにか あたってくる
すでに散りおわった花の
萼か蕊か よくわからない
褪せたみどりの破片のようなものが
新しい芽に押しのけられるようにして
ぽろぽろと落ちてくる
思い出を追い越して花の湧きだす四月が
生まれはじめる季節だとするのなら
ここはちょうど 死にはじめる季節
その最中であるらしい
いつか知り合いのおばさんが
豆菓子をつまみながら
わたし死ぬのが怖いんですよ
と ぽつりといったことがある
父にそうやって話したらね
見せてあげるっていうんですよ
おとうさんが先に死んで見せてあげるから
大丈夫だよ っていうんですよ
わたしたちも豆菓子を持ったまま
しばらく なにも言わなかったのだったが
つぎつぎに降ってくる
萼やら 蕊やらを浴びながら
このやわらかな落下は
もしかしたら そうか
見せてくれているのかもしれない
道路にはハナミズキが乾き
そばで枇杷の実が腐ってゆく
死ぬことの烈しいやさしさ
うすみどりの無音
夜は大降りの予報で
未明には止むという
おばさんも
おばさんのおとうさんも
まだ生きている
あしたには
葉がいっせいに噴きだすだろう