次の記事 前の記事

今月の詩

2017.07.05

野菜サンド山脈

詩/佐藤佑紀

ふらっと入った喫茶店
ギラギラシャンデリアとどっしりソファ

おじいさんとおじいさんとおばあさんと
アイスコーヒーにたっぷりガムシロップ
もうそれはガムシロップティーだ
政治について討論会してた

お腹が空いてた私は とりあえず
サンドウィッチドリンクセット
昼間の喫茶店あるあるオーダー

なんとなく一番上にあった野菜サンド

侮っちゃいけない
出てきたのは四つの山脈 立派なやつ

あー 絶景

薄めにスライスされたパンの中に
トマトとシャキシャキキュウリ
調和しすぎて優しすぎて
ありがとうお母さん的ドレッシング

一瞬でその山脈を飲み込んだ
あっつあつのコーヒーと一緒に

ありがとう野菜サンド山脈
また来るね野菜サンド山脈

選評/文月悠光

喫茶店のありふれた光景が、リズミカルな表現で輝いて見えます。山脈を飲み込むイメージがパワフルで、読むと元気が出てくる一篇です。体言止めでモチーフに存在感を出しつつ、単調にならないよう、「サンド」と「山脈」で(「~さん」も?)韻を踏んでいるのも芸が細かい。〈調和しすぎて優しすぎて/ありがとうお母さん的ドレッシング〉。とびきりの美味しさではなく、なんの変哲もない優しい味わいに心慰められる瞬間がよく表れています。