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今月の詩

2023.01.06

星の

詩/遠藤葉月

やさしい人へ
きこえていますか

泣きそうになった話があるの
星には今日も届きそうにないの

詩をかくときに
つかってはいけない言葉があるの
だから今は言えないんだけど

どの星にいったら言える?
ぼくさどの星にいったらいいの

泣きそうになった話がしたいの
この星ではまだ言えそうにないの

空気がはじいて浮かんでいくの
それでも今日も届きそうにないの

やさしい人へ
きこえていますか
ぼくです
きこえていますか

 

 

選評/穂村弘

 詩の詩、メタレベルの詩といった印象を受けた。「詩をかくときに/つかってはいけない言葉があるの/だから今は言えないんだけど」に、はっとさせられる。どんな「言葉」でも、平気で使ってしまった自分が不安になる。「詩をかくときに/つかってはいけない言葉があるの/だから今は言えないんだけど」から連想したのは、石原吉郎の「詩の定義」という文章である。その中に「詩における言葉はいわば沈黙を語るためのことば、「沈黙するための」ことばであるといっていい」という一節があった。「この星ではまだ言えそうにないの」という思いの強さこそが、詩人という存在を生み出してきたのではないか。もしも、そうだとすれば、「星の」の作者は、「この星」の「今日」を超えるための「言葉」を掴んで明日の詩人になれるだろう。「この星」を別の星に変えるだろう。