やさしい人へ
きこえていますか
泣きそうになった話があるの
星には今日も届きそうにないの
詩をかくときに
つかってはいけない言葉があるの
だから今は言えないんだけど
どの星にいったら言える?
ぼくさどの星にいったらいいの
泣きそうになった話がしたいの
この星ではまだ言えそうにないの
空気がはじいて浮かんでいくの
それでも今日も届きそうにないの
やさしい人へ
きこえていますか
ぼくです
きこえていますか
選評/穂村弘
詩の詩、メタレベルの詩といった印象を受けた。「詩をかくときに/つかってはいけない言葉があるの/だから今は言えないんだけど」に、はっとさせられる。どんな「言葉」でも、平気で使ってしまった自分が不安になる。「詩をかくときに/つかってはいけない言葉があるの/だから今は言えないんだけど」から連想したのは、石原吉郎の「詩の定義」という文章である。その中に「詩における言葉はいわば沈黙を語るためのことば、「沈黙するための」ことばであるといっていい」という一節があった。「この星ではまだ言えそうにないの」という思いの強さこそが、詩人という存在を生み出してきたのではないか。もしも、そうだとすれば、「星の」の作者は、「この星」の「今日」を超えるための「言葉」を掴んで明日の詩人になれるだろう。「この星」を別の星に変えるだろう。