目が疲れて、
目薬をさす。
目薬をさすと、
沁みますね。
目をつむって、
目頭を押さえて、
こぼれ落ちた目薬を拭おうと、
ハンドタオルに手を伸ばし、
伸ばした先に、
亀。
ゴツゴツとしながら、
所々柔らかい、亀。
亀?
まぁ、そういうこともあるかと思いながら、
まだ目は閉じたまま。
選評/穂村弘
この詩に難しい言葉は一つもない。でも、面白い。「目薬をさすと、/沁みますね」という独り言のような、語り掛けのような、口調にまず引き込まれまる。「目をつむって、/目頭を押さえて、/こぼれ落ちた目薬を拭おうと、/ハンドタオルに手を伸ばし、/伸ばした先に、/亀。」では、一つの文が六行に分けて記されている。そこまで引っ張ったからこそ、唐突な「亀。」が生きた。えっ、と驚く。どうして瞬時に確信できたのか。「ゴツゴツとしながら、/所々柔らかい、/亀。」の実感を経てから、不意に「亀?」と揺らぐところで、こちらまで不安になる。そうでしょう、そんな保証はどこにもないよ。もし亀だとしたら、いったいどこからやってきたのか。「まだ目は閉じたまま。」という終わり方もいい。でも、いつかは目を開けなくてはならない。それは一秒後か百年後か。その時、何を見るのだろう。