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偏愛!資生堂

2020.02.03

第39回 白武ときお × イプサ ME

文・写真/白武ときお

Vl Allegro ♩ 120

おっと大変だ! 急がないと遅れてしまう! 不思議の国のアリスのチョッキを着た白いウサギのようにいつも時計を見て跳び上がる。この原稿も早く書いてしまわないと。私は締め切りと馬が合わない。

去年の春、長く付き合った女性とお別れした。「急がないと遅れてしまう!」と言って消えてしまった。その女性は私にイプサのMEを教えてくれた。それ以来リピートして使っている。

IPSA ME レギュラー 3(医薬部外品)

私は付き合う前にはまったく意識せず、その片鱗も察知していないが、毎度毎度、母親と似た性質をもつ女性と付き合っては別れている。繰り返しである。

母親は私が中学生のときに化粧水と乳液の重要性を説き、言われるがままお風呂上がりに肌の保湿を行った。習慣が肌をつくった。

肌本来の美しさを引き出すイプサのME。哺乳瓶を思わせるパッケージ。母性を具現化したような乳白の化粧液。一日中パソコンに向かって人のセリフを考え続ける日々の疲れを癒すように、イプサを手に取る時間を瞑想に充てている。私の好きな時間。

プッシュ
プッシュ
プッシュ

ポンプを3回押してコットンをひたひたにする。

足りないものを与える化粧水や乳液などとは、まったく異なるアプローチ。毎日の中に嬉しい手ごたえがない日も、イプサは優しく満たしてくれる。

世界に対して美しさを提案できなかった醜い自分と向き合う時間。イプサはまるでラジオのようだ。毎日親しく話しかけてくれる。

Adagio ♩ 60

― きょうはどんないちにちだった? ―

ぽつりぽつりと、今日感じた自分の醜い部分を報告する。

―女の子が1ミリも笑わないサッカーの喩えを繰り返ししてしまった。
―元ハッカーのセキュリティアドバイザーを信用してしまった。
―肛門日光浴をしている後輩の女の子を頭ごなしに叱責してしまった。
―再結成したガールズバンドを見てため息をついてしまった。
―AIが人類最後の発明になるはずだと、自分が考えたように言ってしまった。
―元柔道家の目を見ず、耳に目をやりながら喋ってしまった。
―可愛いあの子が口をつけたストローを持って帰るという案が頭をよぎってしまった。
―愛してない女に愛してると言ってしまった。

時間は前の恋人。戻ってくることはない。常に一方向。時計の針のように、ぐるぐると毎日同じことをしていたけど返らない楽しかった時間。

時間がある日には、より丁寧に化粧液をしみ込ませる。そういうときは決まって昔のことを思い出す。

4歳、ヴァイオリンの発表会。好きな女の子の隣でメヌエットがループしてしまう。終わりたいのに終われない。えんえんと泣きながら演奏を続けた。

どうやって終わったのかは覚えていない。

帰り道。「繰り返しになっちゃったけど、いい演奏だったね」と母親。そこは鮮明に覚えている。前の恋人はこの話を気に入っていて、ことあるごとに話題に出した。

ゆったりとした時間を生む化粧液。まるでお母さんみたいに優しい温もり。かけがえのない記憶を思い出させてくれる。私の好きな時間。そろそろ家にある分が少なくなってきたので、買い足さなくてはいけない。この時間を絶やさずにいたい。ああ、それには今日も文字を書いて原稿料を稼がないと。

おっと大変だ! 急がないと遅れてしまう! 次の台本が間に合わない!

D.C.

白武ときお

放送作家

1990年京都府生まれ。YouTube 霜降り明星「しもふりチューブ」(毎日18時投稿)、かが屋「みんなのかが屋」、Aマッソ「Aマッソのゲラニチョビ」 TV「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」などの番組を担当。雑誌やウェブなどでコラム執筆なども手掛ける。
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