資生堂は、ちょっと敷居が高いイメージ。
私にはまだ手が届かない存在だったが、『花椿』は手にとってその世界を見ることができた。
文字もテーマも色彩も繊細で、大事に大事に読みたくなるから好きだ。今もずっと憧れている。
その裏側を知るために、雑誌の取材で澁谷克彦さんに会いに行った。
その時期はちょうどグループの卒業を心に決めていた頃。決めていたというものの、自信はなく、誰かと話したかった。自分はこれで良いのだろうか。正しい決断なのだろうか、と。
取材のはずがほとんど悩み相談みたいになってた気がする。そんな話も優しく聞いてくださったのを憶えている。
勝手ながら、大人から聞いた話を材料に、心の不安を埋めていく感覚があった。
澁谷さんは、日常の中にある‟美しい”を探究する、素敵な人だった。
話を聞いて、これから先のことを考えると、わくわくすることができた。
取材を終えた後、化粧品をいただいた。
その中にあったひとつ、自分で買うのは躊躇しちゃうくらいの真っ赤な口紅。
これが私にとって初めてのSHISEIDOの化粧品。
次に向かう武器を手に入れた感覚になった。まだつけてもいないのに、もう自分のものだと思ったら、なぜか自信が湧き出てきた。
あの口紅をいただいて以降、SHISEIDOの他の化粧品も使うようになった。
ひとりになって、もうすぐ一年が経とうとしている。
まだ一年。
口紅は全然減らない。
これからも大事に大事に使おうと思う。