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偏愛!資生堂

2018.05.30

第21回 三浦直之 × uno ワックス

文/三浦直之

Photo/Yasutomo Sampei

中学時代の僕はいまとは比べものにならないくらい身だしなみに気を使っていた。田舎の中学でくるぶしまでの靴下を最初に持ち込んだのは僕だったし、Dragon Ashの降谷建志に憧れて鼻にブリーズライトをつけて登校したこともあった。まわりからは鼻詰まってるの? としか聞かれなかったけど。
整髪料を初めて使ったのもこの頃だ。ドラッグストアにはカラフルな整髪料がズラリと並んでいて、僕はよくわからないままハードワックスと書かれたunoの整髪料を手に取った。家に帰り、さっそく洗面台の前に立ち、買ってきた整髪料を髪の毛に塗る。適量がわからず大量につけすぎて頭がねっとりして気持ちわるかった。どうスタイリングすればいいかわからなかったので、ひとまず束をつくってからひたすらねじりまくる。頭からドリルが何本も突き出してるみたいな髪型が完成してご満悦の自分。髪型が決まると別に誰かに見せることもなく服を脱いで風呂場で髪を洗い流した。
整髪料をつけて登校することはなかった。先生に怒られるのが怖かったからだ。僕は校則を守る男だった。
髪を固めて初めて外出したのは友人と近くのショッピングモールへ出かけたときで、たしか店内のフリースペースで開かれるフリーマーケットにいくのが目的だったんじゃないだろうか。やはりぐりぐりと髪をねじりまくり、もはや漫画のキャラのようなドリルヘッドをつくる。ドキドキしながら友人と待ち合わせたけれど、友人は髪型について特にコメントすることもなく、僕をがっかりさせた。幼いやつだと軽蔑さえした。自転車にまたがりアップダウンの激しい道を走りながら目的地を目指す。僕は漕いでる最中もすれ違う人たちの目線が気になって仕方なかった。特に年上の女子高生をみつけると気が気じゃない。中学の自分は子供だとおもわれるのがとにかく嫌だった。女子高生の恋愛対象になりたくて、妙に眉間に力を入れながらペダルを漕ぎ続けた。
やっとのことでショッピングモールに到着すると、僕は一目散でトイレへ駆け込んだ。友人もとぼとぼとついてくる。息を整えつつ、鏡で髪型を確認すると、やはり出発前は完璧だったはずのドリルが風に吹かれたせいでふにゃけて乱れて台無しになっていた。再びねじってねじっていくつもの螺旋を頭につくっていく。友人は退屈そうに眺めているが気にしない。もうこのときには、さながら組紐職人のような心持ちで頭を丹念にセットするようになっていた。
ようやく納得のいく形に完成し、鼻高々で友人に「どう?」と聞いてみた。すると、友人からは一切の感情が失われたような声色で「孫悟空みたい」という返事が返ってきた。僕は顔を真っ赤にして頭を掻きむしり、螺旋はすぐにほどけていった。

三浦直之

劇作家/演出家

1987年、宮城県生まれ。2009年、主宰として「ロロ」を立ち上げ、全作品の脚本・演出を担当する。 自身の摂取してきたカルチャーへの思いをパッチワークのように紡ぎ合わせ、さまざまな出会いの瞬間を物語化している。2015年より、高校生に捧げる「いつ高シリーズ」を始動。そのほか脚本提供、歌詞提供、ワークショップ講師など、演劇の枠にとらわれず幅広く活動中。2016年『ハンサムな大悟』第60回岸田國士戯曲賞最終候補作品ノミネート。
http://loloweb.jp/