森岡書店代表の森岡督行さんが、銀座の過去、現在、そして未来をつなげる新しい物語です。時の人々が集い、数々のドラマが生まれた銀座には、今もその香りが漂っています。1964年頃に銀座を撮り続けていた写真家・伊藤昊さんの写真とともに、銀座の街を旅してみましょう。
現代銀座考 : XLIV
和光と時計
愛用しているSEIKOの1960年代製ジャイロマーベルが動かなくなったので、和光(*1)で修理の相談をしました。和光には、修理を受け付けるカウンターが1階にあり、白衣を着た方が、時計の修理についてわかりやすく説明してくれました。
私のジャイロマーベルは、オーバーホールをして、バネを取り替えたとしても、動く可能性は、やってみないとわからないとのことでした。手巻きのリューズがすでにかたくなっている。部品が摩耗している。動くようになったとしても1日、数十秒の誤差が生じるだろう。とていねいに教えてくれました。
それでも、私は、修理に出してみることにしました。白衣を着た方は、しかるべき代金を私に提示して、そして、付け加えました。「3ヶ月くらいかかります。もし修理ができなかったら、お代はけっこうです」と。
受領書をいただき、玄関に向かって歩いていると、エレベーター脇にチラシがあり、それには、「時計塔90年 感謝とともに」と書いてありました。和光の社屋は1932年に竣工したので、今年で築90年なのです。
和光のHPを読んでみると、「時計塔の四方にある文字盤はほぼ正確に東西南北を向いています」という説明がありました。文字盤は直径2.4mでガラス製。地上から時計塔までの高さは39.39m。
太陽は、もちろん、東の空からのぼり、南の空を通り、西の空に沈みます。東京の南中高度は、冬至でも31度はあるようです。4丁目交差点の南方には、56メートルのGINZA PLACE(*2)がありますが、試しに計算してみると、時計塔との高度角は24度ほど。南中の日光は、時計塔にあたります。つまり1日のうちで太陽が最も高くのぼる南中の頃、その日光を受けて、鐘が12回鳴り響く。当たり前の事実ではありますが、そう考えると、あたかも、日光のエネルギーが鐘の音と共に、時計塔から、銀座の街に放たれるイメージが広がります。もし、私に、その光景に名付けることが許されるのであれば、まさに「和光」と呼ぶでしょう。
また、そうすると、和光を、日によっては、大きな日時計と見なすこともできるでしょう。上空から見れば、時計塔の避雷針の影が針となり、屋上の床に時刻を示しているとも。いずれにしても、銀座には、止まらなくて、正確で、美しい時計塔があるのは確かなことです。
ちなみに、和光の2階では、Grand Seikoの腕時計をオーダーメイドすることができます。どこにもない一つの腕時計を1年以上かけてつくる。価格は15,000,000円(税別)から。いつか私もつくってみたいですが、まずは3ヶ月後にジャイルマーベルが手元に戻ってきたら、たとえ、少々時間が合わなくても、大事に使おうと思います。和光の時計塔と白衣を着た方への感謝と共に。
中央区銀座4-5-11
*2 GINZA PLACE/明日の銀座を創るランドマークをコンセプトに2016年に開業した、ショールームやレストラン、ビヤホールなどからなる商業施設。
中央区銀座5-8-1