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現代銀座考

XLV:ショートケーキについて

2022.03.28

写真/伊藤昊

文、イラスト/森岡督行

森岡書店代表の森岡督行さんが、銀座の過去、現在、そして未来をつなげる新しい物語です。時の人々が集い、数々のドラマが生まれた銀座には、今もその香りが漂っています。1964年頃に銀座を撮り続けていた写真家・伊藤昊さんの写真とともに、銀座の街を旅してみましょう。

 

 

1964年の銀座の喫茶店。ここにもショートケーキがあっただろう。

XLIV:ショートケーキについて

 現在、資生堂ギャラリーで開催されている、「万物資生|中村裕太は、資生堂と   を調合する」展に行ってきました。この展覧会で、私が最も注目したのは、1923年刊行の『建築写真類聚 バラック建築 巻一』(洪洋社)に収録された資生堂パーラーの写真です。中村裕太さんは、そこに「ストロベリーショートケーキ 30銭」という文字が写り込んでいるのを発見したのです。関東大震災が発生したのは1923年9月1日。資生堂パーラーは2ヶ月後にバラック建築で復興しましたが、すでに、そこではストロベリーのショートケーキが販売されていたと思われるのです。

 日本におけるショートケーキの始まりには諸説あり、もし不二家説を参照するなら、1922年(大正11年)が始まりで、今年でちょうど100年になります(不二家は当時横浜にありました)。ただ、「Tokyo甘味物語」(朝日新聞特設サイト)を読むと、以下のような記述があり、それが、現代の私たちに馴染み深い、ストロベリーのショートケーキであったかは、わかっていないようです。

 “発売当初のイチゴの有無は定かではないものの、クリームをフルーツの果汁やチョコで味つけをしたり、フルーツやシロップづけの果実を使ったりと多様なアレンジがされていたという記録が残っています”

 では、資生堂パーラーのストロベリーショートケーキはいつ頃まで遡れるのでしょうか。掛川の資生堂企業資料館と資生堂パーラーの方に、戦前のメニューを調査してもらうと、「ショートケーキ」と書いてあるメニューが2つありました。しかし、年代は、はっきりしませんでしたが、1928年7月開業の「資生堂アイスクリームパーラー」メニューには記載がありました。

 日本のショートケーキは、ストロベリーと生クリームとスポンジの組み合わせですが、日本の近代化の化身みたいなところがあると思います。欧米のお菓子に憧れて、細部まで分析して追求した結果、違うものになっていった。紅白でもありますし。
 ショートケーキのショートは、「サクサク」という意味の英単語のshortだから、ショートブレッドというお菓子があるように、本来、ビスケットのような「サクサク」な生地で生クリームをはさんでいたと考えられます。それを、およそ100年前、「サクサク」より「フワフワ」が美味しいとおもった人がいた、これは確かなことです。

 ちなみに、ショートケーキ(shortcake)という単語は、1597年に出版された、シェイクスピア『ウィンザーの陽気な女房たち』(The Merry Wives of Windsor)に、登場人物の名前として出てきます。少なくとも400年前のイギリスには「ショートケーキ」があったということでしょう。調べてみると、坪内逍遥訳の邦訳(1934年、中央公論社)、22ページに、以下のようにありました。

“「謎の書」?あれ、お前さま、アリス・ショート・ケークさんへ貸しなすったぢゃないかね、それ、あの、先の衆聖節に、マイケール祭の二週間ばかし前に?”

 坪内逍遥が、もしショートケーキを食べたことがあったなら、「これが、あれか」となっていたのではないでしょうか。

 私は今、資生堂パーラーに着席し、ショートケーキを待っています。およそ100年間、ショートケーキは銀座でずっと販売され続けてきました。そう考えると、銀座のショートケーキを訪ねて歩きたくなるというものです。小さな夢は広がります。ショートケーキを待つ喜びとともに。紅茶の香りとともに。

 

クリエイターの紹介

伊藤 昊

写真家

いとう・こう 1943年大阪府生まれ。生後まもなく、両親と共に父親の実家のある宮城県涌谷町に疎開。6年生のときに、京都太秦の小学校に単身で転校。1955年に東京の明治学院中学校に入学。1961年に東京綜合写真専門学校に入学。1963年に卒業後、同校の教務部に就職。この頃に写真展を2度開催する。1968年に同校を退職し、フリーのカメラマンとなる。1978年に益子に移住し、塚本製陶所の研修生となる。1981年に築窯し陶芸家として独立。その後は晩年まで陶芸家として活動する。2015年に逝去。
5月5日に写真集『GINZA TOKYO 1964』が森岡書店より刊行された。
https://soken.moriokashoten.com/items/2dabee933141

森岡 督行

店主

森岡書店主。森岡書店代表。1974年山形県生まれ。著書に『荒野の古本屋』(晶文社)、『BOOKS ON JAPAN 1931-1972』(ビー・エヌ・エヌ新社)などがある。企画協力した展覧会に「そばにいる工芸」(資生堂ギャラリー)、「畏敬と工芸」(山形ビエンナーレ)などがある。近年は洋服などのプロデュースを手がけることも多い。株式会社森岡書店代表。『工芸青花』(新潮社)のウェブサイトにて「森岡書店日記」を連載中。

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