森岡書店代表の森岡督行さんが、銀座の過去、現在、そして未来をつなげる新しい物語です。時の人々が集い、数々のドラマが生まれた銀座には、今もその香りが漂っています。1964年頃に銀座を撮り続けていた写真家・伊藤昊さんの写真とともに、銀座の街を旅してみましょう。
現代銀座考 : XXVI
「銀座グラフィックデザイン」ツアー 〈後篇〉
さて、皆さま、いよいよ銀座の中心、銀座四丁目交差点が近づいて参りました。右手に見えますのは、2016年に開業しましたGINZA PLACEでございます。透かし彫りをイメージした幾何学デザインの外観が印象的ですが、エントランス上部にございますGINZA PLACEのロゴは、銀座七丁目に事務所をかまえるライトパブリシティが手がけました。このフォントのGとCの曲線部分は、かつてこの場所にあったサッポロビールのビアホールを彷彿させます。曲線がいかにもビールジョッキの取手のようなのです。ちなみに現在も、このビルを所有しているのは、サッポロビールでございます。
銀座四丁目交差点に立ちますと、ライトパブリシティの社長をつとめる杉山恒太郎さんがECD(エグゼクティブ クリエイティブ ディレクター)として手がけた仕事を思い出します。三越伊勢丹の「this is japan」キャンペーンを記憶している方も多いのではないでしょうか。とりわけ、私は、銀座三越に掲げられたバレリーナのオニール八菜さんが躍動する大きな広告が、この交差点に調和していたことを忘れられません。杉山さんは「ピカッピカの一年生」「セブンイレブンいい気分」など、記憶に残るコピーをつくられています。私の大好きな往年の資生堂のコピー、「一瞬も一生も美しく」は、当時lライトパブリシティに所属していた国井美果さんが手がけました。
また、コロナ禍の現状にあって、銀座の商店のいくつかには、「おかえりGINZA」という黄色い暖簾があります。これは、ライトパブリシティが、銀座の街を応援する意味で制作し、提供したものでございます。
そして、銀座4丁目交差点を渡りますと、右手前方に三菱UFJ銀行銀座支店がございます。三菱UFJ銀行のロゴマークは、銀座4丁目に本社がある、原研哉さん率いる日本デザインセンターがデザインしたものでございます。
そのお隣、松屋銀座を見てみましょう。「MaTSUYa」と特徴的な文字が見えておりますが、この文字こそが、仲條正義さんによる“マツヤアルファベット”でございます。これが完成したのは1978年。オリジナルのアルファベットと数字のなかで最も特徴的なかたちをしているのは、数字の「8」ではないでしょうか。前篇でもお話した、資生堂パーラーのパッケージデザインでも意識されていた「8」。仲條さんの頭の中にある「銀座八丁目」への想いが影響しているのではないか、と思ったりしております。
松屋銀座の松屋通り側には。「BAO BAO ISSEY MIYAKE」のショップがございますが、このブランドのVIを担当しているのは佐藤卓さんです。佐藤卓さんの事務所もここから程近い、銀座三丁目にございます。また地下鉄銀座駅から松屋銀座に向かう地下道が2019年にリニューアルされ、美濃焼のタイルがつくる幾何学模様と数字が、空間を一変しました。この通路のデザインをしたのも佐藤卓さんなのです。私はこの空間が好きで通勤でいつも歩いています。いまここで目にすることはできませんが、佐藤卓さんは、銀座三越と松屋銀座、和光、東急プラザ銀座、GINZA SIXが開催する、「GINZA FASHION WEEK」のロゴマークも手がけられているんですよ。
このように、4人のデザイナーの仕事から銀座を見てみました。そのデザインを目にして共通して思うのは、4人とも、銀座が好きだということです。その気持ちがデザインに反映されているのだと思います。
尚、グラフィックデザインで銀座を見ることに対して、日本デザインセンターの色部義昭さんから多くのことを教えていただきました。そして6月に、色部さんとともに、状況が許せば実際に「銀座グラフィックデザイン」ツアーを開催したいと考えています。乞うご期待ください。
「銀座グラフィックデザイン」ツアー<前篇>はこちら