12月19日(日)まで、表参道のギャラリーにて画家、中北紘子の個展「lullaby」が開催されている。彼女の作品の見どころは色彩の美しさ。色を通して表現しようとするのは人間の感情だ。実は、WITHコロナ生活での最近のファッションシーンにおいても、華やぎと元気をくれる色、あるいは優しく癒してくれる色など、“色と気持ちの結びつき”に注目が集まっている。いつになく、“色”が求められている今、中北氏はどんな色を選び、どんな感情を表現したのか。今回展示されている中で、一番思い入れが強いという「Flower」という作品をきっかけに創作活動について聞いた。
躍動感のあるストロークが大きなキャンバス全体を力強くうねる「Flower」は、普段は色彩豊かな画風の中北氏の作品としては珍しく、使用色はゴールドの一色のみ。「本物の花というよりは、心の中に咲いた“感情の花”」と彼女が言うように、ただ美しい花というよりは、猛々しさもはらむ。烈しく大胆でいて、凛とした感情の渦が見えてくるようだ。
「どの作品でも、人間の感情をキャンバスの上で捉えたいという思いがあるんです。なので、大きな作品を制作する時は、実はすぐに描き始めることができない。自分の中に思いをためて、ためて、ためる」
中北氏によれば、思いを蓄える期間が大事で、その“思いをためる”最中は、茶道で心を整えたり、違う作品に取り掛かってみたり。パッと開いた本の中に手がかりとなるような言葉を見つけることもあれば、時には真っ白なキャンバスをただじっと睨みつけ時間を過ごす。機が熟したら、「一気にキャンバスにぶつける」のだと言う。だんだんと作品の完成が近づくにつれて、「自分が抱えていた思いはこれだったのか、とその時初めて分かることが多いんです」。
「作為と無作為の共存」もまた中北氏が一貫して意識しているテーマだ。
「私の作品には、絵の具の“たれ”の表現が多い。でも自然に任せるままだと作品に必要な緊張感が出ません。いかに自然に、かつ、ある種の緊張感をもたせるか」
偶然と計算の絶妙な均衡こそが、彼女の作品をいくら眺めていても飽きない所以なのかもしれない。
今回の個展のタイトル、「lullaby」には「気持ちを和らげる」という意味も込めた。折り鶴を使った「pray」はコロナ禍に手掛けた作品だ。
「たいていの日本人は折り紙で鶴を折ることができますよね。誰かのことを想いながら手を動かして作る鶴。祈りとやさしさ、そして平和への思いをこの作品に込めました」
そもそも中北氏にとって、“祈る”ということは自分自身との対話だという。自分と対峙し、自身を客観視することで初めて、他者へも思いが向かう。
「コロナによる制約によって、そういう時間が大切なのだ、と気づかされました」
中北氏の“祈り”に満ちた静謐な空間にぜひ足を運んで、師走の心の喧騒を鎮めたい。
中北紘子
1981年、兵庫県生まれ。2006年、東京藝術大学大学院美術研究科 絵画科油画専攻修士課程修了後、本格的に活動を始める。神戸と米国カリフォルニアのアトリエを拠点に、国内外で作品を発表。今年4月、神戸旧居留地に自身のギャラリーをオープン。写真:繰上和美
Hiroko Nakakita solo exhibition 「lullaby」
会期: 2021 年 12 月 10 日(金)~12 月 19 日(日)
時間: 11:00 ~ 19:00 入場無料
会場: TIERS GALLERY by arakawagrip 東京都渋谷区神宮前 5-7-12