次の記事 前の記事

Column

2020.05.28

【特別企画】今あなたにおすすめしたい、この作品。Vol.27

新型コロナウィルスの感染拡大防止のための自粛規制が解かれ、徐々に日常が戻ってきました。しかしまだまだ油断は大敵、できるかぎり慎んだ行動でまわりの人たちの安全を守っていきたいこれからです。引き続き『花椿』ゆかりの方からいただいた、在宅で楽しめるおすすめの作品をご紹介します。

第27回は、現在花椿ウェブでコラム「90s in Hanatsubaki」を連載中の林央子さん。このようなときでも日常から離れずに、日々服つくりを通して発信を続ける山下陽光(やました・ひかる)さんと後藤輝(ごとう・あき)さんをご紹介いただきました。日々生きる、そんなシンプルなメッセージがきこえてくるようです。

山下陽光さんのTシャツ「その日の花を摘め」シリーズより。

服をつくるということは、生活をつくることかもしれない。ロンドンでロックダウンを迎えた私は、二人の服のつくり手の発信に日々、勇気づけられていることを実感している。

一人は、福岡に住む山下陽光さん。著書『バイトやめる学校』や、オンライン販売の服「途中でやめる」などすでにファンも多い山下さんは、Twitterやメールマガジンという手段で日々、今を生きる仲間への発信を欠かさない。毎朝発信されるメールマガジン、そして毎週月曜日に配信される、アーティスト下道基行さんとの「山下道ラジオ 新しい骨董」(コロナウィルスの影響が気になり始めた2020年3月に始動)は新時代の生き方へのヒントが満載で、ロンドンにいて初回から欠かさず聞いている。弱者にやさしく、辛い状況下でともに生きる方策を日々、ひねり出す山下さんは現代のブッダか? という気がする今日このごろ。

「その日の花を摘め」 ヨーロッパではペストによって、宗教に頼る限界を知り、そこから今を楽しもう=「カルペ・ディエム(その日の花を摘め)」という言葉が大流行。それがルネッサンスの基盤を用意した。そこにヒントを得た山下さんが、コロナ禍の今つくり出したTシャツ。(林さん)胸元に“Carpe diem”、袖に「その日の花を摘め」と毛糸で刺繍がほどこされる。
「君だけが狂っていない」 山下さんおすすめの広島在住ミュージシャン、ミカカさんの歌詞をとってつくられた。しびれる言葉に、私も愛用のメッセージTシャツ。(林さん)
黒バージョンも。
後藤輝さんのはんてん作品より。

もう一人は、自然豊かなNYの郊外に住む後藤輝さん。彼女が触れたものは何であれ、想像力のいぶきを放つ。輝さんの絵画がとても好きで自宅に飾っているけれど、輝さんは生活をつくる、自然化粧品をつくる、野草料理をつくる、そして服もつくる、子どもや家族との日々の瞬間を短編映像作品に結晶させ、発信する。生きることのきらめきが、彼女の痕跡すべてに散らばっている。

二人とも尊敬しているし活動をフォローしている。その一番の原因は彼らの「勇気」だと私は思う。自分の信じる道を探索し、模索し、発信する勇気。変わることを恐れない勇気。そして、彼らの活動に、私も勇気をもらう。以前の常識が通用しなくなったこの時代にあって、「勇気」をシェアしてくれる人の活動ほど、貴重なものはない、と実感する毎日だ。

後藤さんのインスタグラム@a3igo1oのフィードより。
ほぼ毎日1作品を制作・更新しているという1分のショートフィルム。
後藤さんが作る「はんてん」。ニューヨークのショップ"D-DAY"にて、春の新作と野草商品を販売している。

林 央子

編集者

1988年に資生堂に入社以来、2001年に退社するまで、花椿編集室に所属。入社時の名物編集長、平山景子さんやアートディレクターの仲條正義さんから編集のいろはを学ぶ。古き良き資生堂宣伝部の自由な雰囲気や、銀座という独特な風土の中で国内外のクリエイターと交友を深めた。フリーランスになってからは雑誌などに執筆するかたわら、個人雑誌『here and there』を立ち上げる。2019年から2年間、ロンドンで生活し美大セントラル・セント・マーティンズで展覧会研究に着手。著書に『つくる理由』(2021年)、『拡張するファッション』(2011年、のちに同名の展覧会になって水戸芸術館現代美術センター、丸亀市猪熊源一郎現代美術館へ巡回)ほか。『here and there』 最新号のvol.15は7月1日発売。本連載をまとめた書籍は近日刊行予定。(Amazon.co.jpにて予約受付中)。(画・小林エリカ)
http://nakakobooks.seesaa.net/
https://hereandtheremagazine.com/