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Column

2018.09.28

アジア旋風のきっかけとなる!?映画『クレイジー・リッチ!』が公開。

文/小川知子

8月中旬に全米公開された『クレイジー・リッチ!』が、世界で大いに盛り上がっている。公開直後にその話を中国系アメリカ人の友人(日本在住)にしたところ、「アジア系で盛り上がってるだけじゃないの?」とクールな対応が返ってきた。「そんなことはないのでは?」と思い、海外のトーク番組にざっと目を通してみると、ゲストに出演者が出まくっている。原題が「Crazy Rich Asians」なだけに、映画は出演者のほぼ全員がアジア系俳優。当然トーク番組のゲストもアジア系ばかりで、これはなかなか新しいムードだと思いながら眺めていたら、雑誌『TIME』(アメリカ版8月27日号)の表紙を、ヒロイン役を演じたコンスタンス・ウーが飾っている。カバー・ストーリーのタイトルには、「クレイジー・リッチ・アジアンズがハリウッドを変革している」とあった。「いよいよ、アジア系=セクシーの時代が来たんじゃない?」と、私は友人にテキストを送ったのだった。

 アジア人はヒロイン、もしくはヒーローにはなれない。なぜなら、アジア人がメインを張る映画はヒットしないから。というのはつい最近までハリウッドの定説とされていた。アメリカで活躍するアジア系ラッパーのドキュメンタリー『バッド・ラップ』(2016)の中で、ダムファウンデッドは、「テレビに出ているアジア人(男性)で、セクシーでかっこいいというキャラクターはいない」と断言。映像の中のアジア人像は変わってきているとはいえ、未だに脇役でモテない、という古典的な印象は強く残る。また、アジア人女優にきちんとスポットライトが当てられ始めたのも、最近のことである。シーズン15の放送が決定したドラマ「グレイズ・アナトミー」で知られる、韓国系アメリカ人のサンドラ・オーは、「Killing Eve(原題)」で、第70回エミー賞主演女優賞にノミネートされた。1949年から続くこの賞で、アジア系女優が主演としてノミネートされたのは2018年が初めてのことだ。

独身女性の葛藤。 未来の嫁姑問題は世界共通!?

 そんな中、アジア系俳優だけで映画をつくってもハリウッドで成功しますよ、とアジア系の役者の存在を証明したのが、映画『クレイジー・リッチ!』なのである。公開3週連続で興行成績全米1位をキープ。公開6週目に突入してもなお、北米興行収入は1億5900万ドル(約177億円)超え。まごうことなき大ヒットだ。
ヒロインは、中国からアメリカに移住した母に育てられ、ニューヨーク大学で経済学の教授として働く、カジュアルで聡明な、ザ・ニューヨーカーのレイチェル。そんな彼女が、恋人ニックの故郷シンガポールへ一緒に行くことになり、彼が不動産王の御曹司だったという事実を知り困惑しながらも、古いしきたりを守ってきた恐ろしくもきらびやかなニックの家族や親戚一同、さらに社交界と対峙することになる……。という基本的には普遍的な物語だ。一見、同じように見えたのに、蓋を開いたら全く異なる価値観を持つ家族のもとで育った人を愛してしまった場合、果たして共に生きられるか?という悩みは、大なり小なり誰もが抱えるものだからだ。ましてや自由の国で人生を切り開いた、働き盛りの女性だったらなおさらだ。
 面白いのは、このある種、普遍的な女性の葛藤の物語を、金持ちだらけというファンタジーの世界で描いたのが、女性ではなく男性であることだ。原作は、シンガポールに生まれ、元財閥の息子でアメリカに移住した作家ケビン・クワンの処女作。映画化にあたって、主演女優をホワイトウォッシュ(白人化)する案もあったそうだが、アジア系俳優のみでの製作を条件に、クワンはその争奪戦となった映画化権をなんと1ドルで譲渡。まぁ、この映画、確かに白人がメインどころをやってしまったら全く意味がない。見た目は中国系だけど、中身はアメリカ人で、しかもシングル・マザーに育てられた庶民がヒロインであることに意味があるのだから。

新人から個性派まで、 華麗なるアジアンズが集合

 本編では、雑誌『Forbes』のいわゆるアジアの富豪一族資産ランキングにノミネートされるレベルの富豪たちがわんさか登場するが、その美しさったらない。もちろん、個性派も出てくるが、スクリーンを占める男女共に、肉体美も衣装も小物までキマっている。これには、「アジアの役者は美しい」とハリウッドも認めざるを得ないだろう。そして、ディティールまで豪華絢爛。恋人ニックのいとこであるアストリッドが一般人の夫にプレゼントする時計は、リアルに昨年のオークションで20億円で落札されたことで話題のロレックスのデイトナ、ポール・ニューマン・モデルだったりするから驚く。

 ヒロイン、レイチェルを演じたのは、20年ぶりにアジア系アメリカ人がテーマとなった人気ドラマシリーズ「フアン家のアメリカ開拓記」で人気を博した、36歳のコンスタンス・ウー。超リッチな恋人ニックに、マレーシア生まれのヘンリー・ゴールディング、31歳 。ほぼ新人から一転、ホットなアジア俳優として注目の的に。レイチェルの親友、金髪頭のペク・リンには、『オーシャンズ8』(2018)でも個性を放っていたラッパー兼女優オークワフィナ。本作でもコメディエンヌ としての才能をがっつり発揮。主題歌「Money (That’s What I Want)」にもラッパーとして参加している。そして、忘れてはいけないのが、ニックがシンガポールに来るきっかけとなる、親友コリンの結婚相手アラミンタ役を演じた日系イギリス人のソノヤ・ミズノ。エマ・ストーン主演のNetflix配信ドラマ「マニアック」でメインキャストの一人に抜擢された彼女は、元バレリーナならではのしなやかで可憐な花嫁姿を堂々披露する。
 このアジア人であることをポジティブに捉える旋風は、まだまだ止まらない。この空気が、きっとハリウッドから世界へ、新たな流れを生み出していくに違いない。

『クレイジー・リッチ!』
9月28日(金) 新宿ピカデリー他 ロードショー

監督:ジョン・M・チュウ『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』 
原作:ケビン・クワン著『クレイジー・リッチ・アジアンズ』(竹書房より)
出演:コンスタンス・ウー、ヘンリー・ゴールディング、ミシェル・ヨー、オークワフィナ、ソノヤ・ミズノ他
配給:ワーナー・ブラザース映画 宣伝:スキップ
2018年/アメリカ/カラー/シネマスコープ/英語/121分/
原題:Crazy Rich Asians

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