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Column

2022.11.16

現代生活の考察 第二回 小野りりあん

取材・文/岡澤 浩太郎

写真/細倉 真弓

私たちが日々を送るこの現代生活における「豊かさ」とは何か、さまざまなフィールドで活動する方々へのインタビューを通して考える短期連載企画「現代生活の考察」。9月に発行した『花椿』最新号との連動企画でお送りしています。第二回の今回、お話をうかがったのは、モデル兼気候変動活動家として活動する小野りりあんさん。本誌では一部しか触れていないインタビューを全文掲載でお届けいたします。

 

――りりあんさんが国際環境NGO「350.org」にボランティア登録したのは、温室効果ガスの削減目標を掲げたパリ協定が発効された2015年でした。それから活動家としていろいろな国や地域に足を運び、いろいろな人たちと出会い、さまざまな現場を見てこられたと思いますが、この7年の間に社会や人々の意識に変化はあったと感じていますか?

小野りりあん(以下、りりあん)
2015年当時は、ある程度人はいたけどNGOの人たちだけという感じでした。でも、2019年にグレタ・トゥンベリちゃんが国連気候行動サミットで演説したりしたことで、世界中の若者たちが立ち上がり、社会運動がすごく活発になり、「社会問題や気候変動に関心をもつのは当たり前」という空気感がすごく広まったと思います。

――個人的には、2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)もターニングポイントになり、気候変動などに関心をもつ人が増えたように思います。ただそれも、企業や投資家など経済界がそれらに取り組み始めたのが背景で、結局はお金が関係しないと関心を引かないのか、と。

りりあん
私も街を歩いていて、「命よりもお金が優先なんだ」って、日々感じます。ある企業の方は、「この2、3年はグリーンウォッシュ(実態と異なり、あたかも環境に配慮しているかのように見せかけた商品や経済活動)を変えていくのが世界の流れになる」と言っていましたが、消費者の意識が上がって来たから、企業はいまやっていることを本当に変えないといけないと思います。そうしないと未来はないから。人類消滅の危機なんです。

――日本の現状はどう見ていますか?

りりあん
日本は世界と比べて、この危機感にまだ気づいていない人が一般的にすごく多いです。私は海外で学んだことを持ち帰って日本で活動したいと思っていたけど、先進国と言われているこの国でさえこの状況なのを見て、「私はいったい日本で何をしたらいいんだろう……」という感じになっちゃって。

――というと?

りりあん
たぶんいま、私は道に迷っているんです。ここ2年ぐらい、夢中で走って、やってみて、これでは足りない、またやってみて、まだ足りない……という間に疲れちゃって。「自分の描く理想は、実際に自分ができることとはかけ離れているんじゃないか」って自分にがっかりして、「だけど仕方がない、それも含めて私だから」という感じで、いま模索しています。

正直に話すと、「あれ、全然戦いたくないぞ?」、「やっぱり、自然ってきれいだなあ」とか、そんな感じになってて(笑)。これまで左脳の論理的思考にばかり合わせて物事を選んできたんですけど、もうちょっと右脳の感受性や感覚を感じ取って、それにもとづいた思考や選び方にシフトしないと、自分が情熱的になれるものが見つからないと、いまは思っています。

――りりあんさんの、そういう迷いや葛藤も誰かの心を引き付けているのだと思います。ところで、気候変動に興味を持つ人のなかには、デモで声を上げるよりも、例えば地方に移住して自給自足の生活を目指すことを大切にする人たちもいますが、どう思いますか?

りりあん
運動は確実に必要だと思うんです。例えばあるおじいちゃんの活動家は、学生時代に平和運動をやって、だけど「地球を変えるなら自分がまずそのあり方になるんだ」と思ってオーガニックなエコビレッジを30年くらいかけて築いてきたけど、結果的にいま地球が本当に壊れそうになっていることに気づいて、「やっぱり運動をいかにつくるかが大事」というところに立ち戻っているんですね。

結局、社会構造の問題じゃないですか。「こういう生活がいいんだよ」と誰かに見せられるモデルを自分が体現したり、自分の心を大切にしたりするのもすごく必要だけど、同時に、社会は基本的にそれを無視して成り立っている。だから、+αで社会構造を変えることも考えていきたいんです。バランスですよね。

――+αですね。

りりあん
ペットボトルを使うのをやめたり、電灯をLEDに替えたり、普段の生活にもいろいろなレイヤーにチャンスはあって、すべてに意味があるから、できるところから少しずつやっていく。さらにもうちょっと広い視点で、「自分がハッピーになれるところ」を見つけられるといいですね。自分がやりたいことで、周りもハッピーになるほうがいいじゃないですか。

――最後の質問です。りりあんさんが目指す理想の世界は、どういうものですか?

りりあん
すべての命を大切にする世界です。お金より命。お金がなくても助け合える文化。人間以外の声を聞いたうえで、人間として地球で生きること。そういう世界ですね。

 

小野 りりあん
気候活動家。2004年よりeva managementにてファッションモデルを始める。2019年COP25マドリードへ飛行機に乗らずして目指す旅の実践から、SNSにて気候変動情報&アクションを発信。活動家と並行してモデル業と執筆活動を行う。
https://www.instagram.com/_lillianono_/
https://twitter.com/_lillianono_
https://note.com/_lillianono_/all

岡澤 浩太郎

編集者

1977年生まれ、編集者。『スタジオ・ボイス』編集部などを経て2009年よりフリー。2018年、一人出版社「八燿堂」開始。19年、東京から長野に移住。興味は、藝術の起源、森との生活。文化的・環境的・地域経済的に持続可能な出版活動を目指している。
https://www.mahora-book.com/

細倉 真弓

写真家

東京/京都在住
触覚的な視覚を軸に、身体や性、人と人工物、有機物と無機物など、移り変わっていく境界線を写真と映像で扱う。立命館大学文学部、及び日本大学芸術学部写真学科卒業。写真集に「NEW SKIN」(2020年、MACK)、「Jubilee」(2017年、artbeat publishers)、「transparency is the new mystery」(2016年、MACK)など。
http://hosokuramayumi.com