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Column

2022.11.08

あなたと化粧品の物語 第4回

先日からスタートしたあなたと化粧品の物語、
第4回は竹春さんの「物語」です。

 

 

セルジュ・ルタンスの生み出す世界に魅了され、『ノンブルノワール』を手にしたのは、高校生の頃でした。
私にとって初めての香水は、今思うと十代にはそぐわない濃厚な香りだったと思います。

和洋折衷は当時自分の中で盛り上がっていたスタイルでもあり、漆黒の八角柱でシノワズリ漂うアトマイザーをひと目見て、それを手に入れずにはいられませんでした。 蓋を開けると、熟した花なのか果物なのか、甘い中に獣が潜んでいるような湿った土の香りが混じり、奥のほうに墨のような静けさも感じられ、艶麗なものと神聖なものとが溶け合った匂いはとても刺激的でした。

制服を着ている時には、アトマイザーのボトルを開け、底に沈んでいたチューブの先を左手首にチョンと1回つけるにとどめていましたが、 唇を赤く染めお気に入りのアーティストのライブに行くときや、アマチュアバンドのボーカルとして衣装に着替えこれから舞台に立つというとき、胸元にプシュッと吹きつけその匂いをまとうと、違う自分になったような気がしたものでした。

今だったらこの香りをどんな風に感じるでしょうか。
近頃は透明感のある香りを好んでいますが、パチョリが含まれているものを探すのは、最初に手にしたこのオードパルファムがベースになっていると思います。

少しずつ少しずつ使っていましたが、使い切って再度購入しようとしたときには、既に廃番になっていました。
そのまま手元にあったとしても、香りは濃縮され当時のままの姿ではないと思いますが、空のアトマイザーだけでも残しておくのだったと、もう手に入れることのできない香りを想うのでした。

テキスト/竹春
写真/伊藤明日香