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Column

2018.11.30

世界サウナ紀行 Vol.8 Destination : Cologne (Germany)

文、写真/大智由実子

イラスト/ほりゆりこ

もうサウナの本場フィンランドも行ったしバルト三国のサウナも体験した。アメリカ西海岸のサウナ旅にも行き、生死の狭間を彷徨うスウェット・ロッジも体験した。サウナに関しては「もう怖いものなし!」かと思いきや、まだ超えていない大きな壁がひとつありました。それは、“男女混浴真っ裸のサウナ”です。日本の紳士淑女の皆さんは「え?」と耳を疑うかもしれませんが、ドイツでは老若男女が同じサウナ室の中で真っ裸が当たり前なのです。フィンランドでも昔から家族で一緒にサウナに入ったり、男女の友人同士や会社の同僚たちと真っ裸でサウナに入ることは普通だと聞いていたのですが、それらはほとんど個人所有のサウナの話なのか、私たちが行ったパブリックのサウナ施設は男女が分かれていたり、男女一緒でも水着着用だったりしました。ところがドイツでは、サウナにおける厳しいルールがいくつかあり、その中のひとつが水着着用禁止なのです……。しかしドイツと言えば「アウフグース」という、サウナストーンにアロマ水をかけて発生させた蒸気をマイスターと呼ばれるプロがタオルを使って客に送るパフォーマンスの発祥の地。最近では日本の温浴施設でもこのパフォーマンスを取り入れるところが増えてきましたが、ここはやはり一度は本場のアウフグースを体験してみたい!との思いで一大決心し、ドイツに行くことにしたのです。

発祥の地で体験するアウフグース。

サウナの旅は 新しい目的地へ

 向かった先は大聖堂が有名な都市、ケルンにあるクラウディウス・テルメ(Claudius Therme)。温泉大国ドイツは各都市に巨大なスパ施設があり、各スパ施設には必ずと言っていいほどサウナがあります。しかも、さまざまな種類のサウナが何部屋もあり、そこはまさにサウナ天国なのです! 着いてすぐに入口の館内マップを見て、あまりの充実っぷりにテンションは上昇、しかし私たちには越えねばならぬ大きな壁が……。そうです、サウナで気持ちよくなるためには見知らぬ人の前で裸にならなければならないのです。
 ここクラウディウス・テルメは大きく2つのエリアに分かれます。ひとつは水着着用の温泉プールエリア、もうひとつは男女混浴真っ裸のサウナエリア。まずは水着を着てプールエリアに。ぬるめの温水プールといったところでしょうか。ドイツ人の皆さんはジャグジーがお好きなようで激混みでした。他にも、1時間に1回高速回転になる流れるプール(これ、実際に流されるとめちゃくちゃ笑えます!)なんてのもありました。
 さてさて、お目当てのサウナエリアは、「サウナビレッジ」なんて名前がついているとおり、様々な種類のサウナがあり、もうそこはサウナ大好きな村人たちの住む小さな村のようです。ただし村人全員真っ裸!(笑)

目にも鮮やかな 真っ裸の人、人、人

 私たちが水着を着たままサウナエリアに足を踏み入れた途端に目に飛び込んできたのは全裸で水風呂に入っている老若男女の姿! ドギマギしながらそそくさと着替えをするところに行き、さっと水着を脱いでバスローブをはおりました。サウナエリアでは、サウナ室と水風呂の中は全裸ですが、休憩したり移動するときは皆さんバスローブをはおっていますのでご安心を。サウナビレッジには4つのサウナがあり、それぞれのサウナでテーマに合わせたアウフグースを行っており、黒板にタイムスケジュールが書かれています。初めて本場ドイツでアウフグースを受けるワクワクと、見知らぬ男性の前で裸になるというドキドキを胸に、アウフグース開始前にサウナ室に行くと、皆さんバスローブを脱ぎ捨てタオルをもってサウナ室へ入っていきます。私たちも「えいっ!」と思い切ってバスローブを脱ぎ、タオルで身体を隠してサウナ室のドアを開けました。すると、広々としたサウナ室のベンチにタオルを敷いて全裸で座る男女がずらり。ドイツでのサウナマナーのひとつとして、ベンチに直接座ってはいけない、ということがあります。ドイツでは、日本のサウナ施設のようにベンチにふかふかのマットが敷かれていることはなく、必ず持参したタオル(しかも、大きめのバスタオル)を腰からつま先まで敷いて、肌が直接ベンチに触れないようにしなければならないのです。汗びっちょりのままベンチに直接腰を下ろした日にはもう、ドイツ人から大ブーイングです。その厳しいマナーについては事前学習していたので、サウナ室に入って身体を隠していたバスタオルを取り、全裸になって腰から足先までタオルを敷いて座りました。すると不思議にも、だんだん羞恥心が薄れていくのです。いったん思い切って裸になってしまったら、まわりがみんな裸だからか、むしろ裸でいることのほうが自然に思えてくるのです。恥ずかしがって身体をタオルで隠しているほうが不自然というか、かえって目立ってしまいます。もちろんまわりのドイツ人の皆さんもサウナ室の中では裸でいることが当たり前なので、じろじろと好奇の目で見たりいやらしい目線の人はいません。老若男女が堂々と裸で共存しているその空間にちょっと感動さえ覚えます。

サウナビレッジにはいくつものサウナが用意されている。

タオルの解放と共に 心身の解放が

 そうこうしているうちにサウナ室は全裸のお客さんで満席になり、いよいよマイスターと呼ばれる長髪イケメンの男性が上半身裸でサウナ室に入ってきました。アロマ水の入った桶と柄杓を手にしながらにこやかに挨拶をして、何か喋ってはお客さんをドッと笑わせます。ドイツ語なので何を言っているのかは分かりませんでしたが「つかみはオッケー」となり室内が和やかな雰囲気になったところで急にマイスターがキリッと真剣な表情になりました。そしてお客さんたちもピシッと姿勢を正したり目をつぶったりして準備が整うといよいよアウフグースが始まります。マイスターが大きなストーブの上に敷き詰められた熱々のサウナストーンの上にアロマ水をかけていきます。「ジュワァァ〜〜」という音と共にミントの爽やかな香りと熱気が室内に広がります。そしてマイスターがなんとも優雅な手つきで舞いを舞うようにタオルを回しながら室内に熱波を送ります。汗だくになりながら真剣な表情でタオルを振り回すその様は見ていて神々しささえ感じました。室内の体感温度は上昇し、お客さんたちも汗だくになりながら恍惚の表情を浮かべています。5分くらい経って室内にまんべんなく熱波が送られ、気持ちよく発汗した頃にアウフグースが終わり、ドアが開けられました。「はー、気持ちよかった」と外に出ようとしたのですが、実はまだ終わりではなかったようです。外からハチミツと塩が入った小皿がもち込まれ、順に配られていきます。それを身体に塗って第2ラウンドが始まりました。またまた熱波を浴びてハチミツと塩まみれで汗をかき、下に敷いたタオルはビチョビチョに……。
 第2ラウンドが終わり、ドアが開くと皆さん外に出てシャワーを浴びてから水風呂に直行です。恍惚の表情で裸の男女が水風呂に入っている様はもう「ここはエデンの園か?」と思うほど。そしてバスローブをはおってから、あちらこちらにあるラグジュアリーな休憩室のリクライニングチェアでゆったりと休みます。お腹が空いたらバスローブのまま飲食ができるラウンジもあり、そこで出されるメニューも絶品の美味しさ! もう「ドイツ人、どんだけ気持ちいいこと分かってんねん!」とツッコミを入れたくなるほど施設内は至れり尽くせりの充実ぶりです。他にもロシア流アウフグースが行われているサウナ室があったり、ローズのアロマを使って女性がアウフグースを行うサウナ室があったり、テーマに合わせてさまざまなアウフグースが行われており、飽きることはありません。結局私たちは半日以上をそこで過ごし、ドイツ人のどん欲なまでの快楽の追求にただただ頭が下がる思いでいっぱいになったのでした。

写真出典:https://www.claudius-therme.de/en/sauna/

Claudius Therme GmbH & Co. KG
Sachsenbergstrasse 1
50679 Köln

Tel:+49 (0)221 981 44-0
https://www.claudius-therme.de/en/

大智由実子

ライター

洋書のディストリビューションを行うMARGINAL PRESSを立ち上げ、世界各国のインディペンデントマガジンやアートブックを日本に紹介。2016年よりサウナの魅力にはまる。趣味は世界のサウナ巡り。サウナ・スパ健康アドバイザーの資格も持つ。
https://www.marginal-press.com/

ほりゆりこ

イラストレーター

1978年大阪生まれ。デザインやイラストの本職のかたわら「大自然と一体化」をテーマに主に関西を拠点に活動するTent Sauna Partyに所属。著書にタナカカツキ(日本サウナ・スパ協会公認)との共著『はじめてのサウナ』がある。また、リトアニアのサウナハットアーティスト、ヴィクトリアからワークショップを受け「TSP式サウナハット」を考案・制作。お気に入りのサウナは「延羽の湯・鶴橋店」
http://tentsaunaparty.com/