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Column

2017.12.08

小池一子に聞く三宅一生、そしてクリエイティブに働くことについて

このたび、三宅一生さんのこれまでの仕事をまとめた書籍『イッセイさんはどこから来たの?―三宅一生の人と仕事』(HeHe,2017年)が発行されます。著者は、長いあいだ三宅さんのクリエイションを近い距離で見守られてきたクリエイティブ・ディレクターの小池一子さん。2016年にタッシェンから発行された『Issey Miyake 三宅一生』(北村みどり企画・責任編集)に収められた小池さんのエッセイをもとに、一部を加筆し、一冊にまとめたものが本書です。純白のカバーに黒々と、力強く箔押しされたタイトル、浅葉克己さんのアートディレクションによるその装丁はなんとオール活版印刷(※)! 中面には横尾忠則さんがこれまで手掛けられたイッセイ ミヤケ パリ・コレクションの招待状の作品が収められ、翻訳を木幡和枝さんが担当されています。本書について、著者の小池さんにお話をうかがいました。
※日本語版のみです。

左:日本語版、右:海外版表紙

―とてもユニークなタイトルですね。
「このタイトル、不思議でしょう。一生さんとお話していると、その発想や表現はどこから湧いて来るのだろう? 不思議な人だなあと思うことが多いんです。その想いを込めてみました」。

―オール活版とは、多くのデザイナーにとっての永遠の憧れといいますか、リッチなつくりで圧巻です。
「そうですね。はじめに日本語なので縦組みで作ろうということが決まり、浅葉さんに相談したら『じゃあ活版だ!』と過剰に反応されまして(笑)。この本の中で私はかつて私淑していたダイアナ・ヴリーランドを参考に、かなりさっぱりとした文体で著すことを心がけていたので、活版にするのはなんだか恐縮だわ……とも思ったのですが、1970年代にともに仕事をしてきた人たちの友情の力でつながった不思議な本なので、至れり尽くせりで作られました。こんなに贅沢なつくりなのに価格が抑え目、という点もよかったです。なによりも学生や若い人に手にとってもらいたいですからね。」

中面より

―改めて三宅さんのお仕事を振り返ってみていかがでしたか?
「やっぱり“市民の衣服”というミッションを思い返したことでしょうか。これは当時、私が一番共鳴した言葉で、フランスが1968年に文化革命を起こしていたときにアメリカではジーンズができた。そのような中で私たちは日本から、どのようなものを“日本の衣服”として海外に提案したいかを本当に真面目に議論していたんですね。そのときに一生さんが日本の布や織りのことを熱心に勉強し始めて、それが1981年に立ち上げたブランド『プランテーション』につながった。市民の衣服の隠れた元を日本の伝統の中に探し求めていたのね。そのことが白州正子さんとの出会いを呼び、私としても印象深い出来事でした。」

―小池さんと三宅さんの仕事のあいだにはもう一方、田中一光さん(アートディレクター)の存在も大きいように思います。
「田中さんとは気になるテーマがとても近くて、本当に馬が合いました。何か仕事が入るとすぐに田中さんに相談に行ったものです。仕事だけでなく、田中さんは私と同じで演劇が好きで、ほかにも音楽やアートなど教養とも言える文化的な素地をしっかりとお持ちだった。そういうところに共感したんですね。これは三宅さんやほかの方の間柄にも言えるのですが、友情でつながっている一方で、仕事でお互いを見合う、というほどよい緊張感がありました。無意識の中で、この人はすごいと思う人と一緒に仕事をする努力は必要だと感じていたんですね。その想いが自身を鼓舞して、次へ、次へとつながっていったのだと思います。」

―そのようなすばらしい方々とお仕事をするとき、小池さんはどのようなことを目標とされていたのですか?
「“価値をつくること”でしょうか。それぞれの専門領域のなかで起きていること、それらが出会ったときに、ハレーションが起きたりシンクロしたりする。その中でそれぞれの価値を高めあっていたのだと思います。天才と言われる人も、他者との関係の中で新しい発見があるのだと思いますよ。武蔵野美術大学で教えていたときに、学生に『すごい人たちに囲まれていいですね』と言われたんだけど、そういうことではない。クラスを見渡して、あの人はすごいなと思う人がいたら一緒に組んだらいいのよ。そうやってきたのが我々なんだから。そのことに気付くか気付かないか、なんです。他者の共感を生む素地を育むことも大事。私の同世代の仲間たちはそれぞれが音楽や演劇、ほかの文化領域のこともけっこううるさく勉強していて、それはいちいちひけらかさないけどどこかで絶対にピンとくるものなんです。」

「これぞ、本」、「これぞ、日本」。紙の存在価値に再び焦点を当てる活版の業をとおして、日本のクリエイション・アイコンとしての三宅一生の存在の大きさを感じることができる本書。ぜひ手にとってただきたい一冊です。

■書籍情報
タイトル 『イッセイさんはどこから来たの? ―三宅一生の人と仕事』
定価 本体3,200円(税別)
版型 B5判/ハードカバー
表紙 紙クロス貼り(箔押し)和英・両面表紙
ページ数 206ページ
テキスト 和英完全バイリンガル(和文:活版印刷)
扉絵点数 22点(表裏合計:29図版)
発行元 HeHe/ヒヒ http://www.hehepress.com

■イベント情報
『イッセイさんはどこから来たの? 三宅一生の人と仕事』(HeHe) 刊行記念
小池一子 × 浅葉克己 × 北村みどり トークイベント

期日 2017年12月13日 (水)
時間 19:00~20:30 開場 18:30~
料金 1,350円(税込)
定員 110名様
会場 お問合せ先 青山ブックセンター 本店
電話 03-5485-5511
リンク http://www.aoyamabc.jp/event/issey-miyake/