国際的に活躍するファッションフォトグラファー、ヴァレリア・ハークロッツの新作写真集『Chaos』の発売を記念し、RABA(東京・浅草)で展覧会「Tenko presents Valeria Herklotz "Chaos"」が2023年の9月2日から10日まで開催されました。ヴァレリアさんの長年の友人であるキュレーターの点子さんの協力によって、この展示は実現しました。2022年にフランスのOui Non Editionsから出版された『Chaos』は5冊に分かれた写真集で、大人へと変化する過程に生まれるエネルギーと不安定さを美しく捉えています。展示準備中に、二人から展覧会とその背景についてお話を聞きました。
ーー二人はどのようにして出会ったのですか?
点子 最初はロンドンだったと思います。私が留学していた頃です。出会ってから気づきましたが、子どもの頃を過ごしたベルリンにも共通の友達がたくさんいました。
ヴァレリア・ハークロッツ(以下、ヴァレリア) さまざまな時期で、点子と私の人生は交差してきました。私が写真の現像所で働いていた時や、点子がロンドンで学んでいた時など、常にお互いに関わりをもってきました。点子といつかコラボレーションしたいと考えていましたが、今回雑誌の仕事で日本を訪れる機会が巡ってきて、この展示を行う良いタイミングだと思いました。
ーー東京は初めてですか? 東京の印象は?
ヴァレリア 今回がはじめての東京です。以前から、東松照明やHIROMIX、ホンマタカシ、荒木経惟などの著名な写真家を通して、東京にいつか来てみたいと思っていました。コロナの影響で世界が遠く感じられた時期もありましたが、ようやく東京を訪れることができてうれしいです。点子と一緒に毎日いろいろな場所で撮影していたので、東京をじっくり楽しむ時間はありませんでした。しかし、東京の周辺、例えば鎌倉や青梅での撮影も経験でき、日本をもっと知れた気がしました。もし時間があれば、行ってみたい本屋やカフェも訪れたいと思っています。
ーーベルリンやロンドンといった都市に住んでいた経験があるようですが、それらと東京を比べてどう感じますか?
ヴァレリア 東京は一言で表せないほど多層的で、複雑なパズルとも言えます。ヨーロッパから見ていたときは、「賑やかな現代都市」という印象が強かったのですが、今ではその深さに気づきはじめています。点子の自宅に滞在している間、さまざまな世代が共存するコミュニティに触れたことで、東京にはまだ知らなかった側面があることに気づきました。そしてこの夏の暑さが、東京に一層の幻想的な美しさを加えているようにも思います。
点子 わたしの家族や友達と過ごしながら、ヴァレリアも東京のいろいろな面に触れたんじゃないかと思います。写真の現像所に行ったり、カメラの機材をレンタルしたり、まるで普通の生活を楽しんでいるようでした。
ーー写真集『Chaos』はどのように誕生したのでしょうか?
ヴァレリア 『Chaos』を通じて、私は静的なポートレートに対する新しいアプローチを探求したかったのです。写真家になる前はキャスティングの仕事をしていたこともあるのですが、これまでのキャリアで、人がカメラの前に立つと「パフォーマンス」をしているように感じていました。それが気になり、『Chaos』では、人々がカメラの存在を意識しない瞬間をキャッチすることにとくに注目しました。この本に出てくるティーンエイジャーたちは、まだ自分を飾ることを知らず、カメラを意識していないため、より自然に近い表現をしています。このプロジェクトはまた、これまであまり探らなかった私自身のカオスな側面を探求する一環でもあります。
ーー青い髪の女の子の写真はとくに印象的な表情をしていますね。
ヴァレリア 彼女はとくに若いモデルでした。その幼さからくる、まだ子どもらしいアプローチがあって、それが写真に独特の魅力をもたらしています。もしもっと年齢が上のモデルだったら、瞬間に合わせて自然体で動くでしょう。しかし彼女の場合、特定の動きをお願いすると、それが一種のタスクとなり、遂行することに集中していて、カメラという存在がなくなっていくんです。そのような“in-between”な瞬間、脆弱かもしれないが素直な瞬間を捉えるのが私は大好きです。
ーーそれがこの本でモデルとしてティーンエイジャーを選んだ理由ですか?
ヴァレリア ティーンエイジャーたちは素直さとパフォーマンスの間にある複雑なバランスを非常に自然に表現してくれます。もちろん、年長のモデルでもそのような瞬間を捉えることはできますが、その場合はより繊細なアプローチが必要になります。
ーー点子さん、展示が実現していかがでしたか?
点子 『Chaos』を日本で展示することができて、とても嬉しいです。ずっとヴァレリアの作品が好きで、色々な良いタイミングが合ったから、この展示ができました。彼女の作品を見ていると、ベルリンで過ごしたティーンのころが思い出されるんです。懐かしさとともに、そのころ特有の楽しさと危うさを同時に思い出させてくれます。
RABAでの展覧会は終了してしまいましたが、写真集『Chaos』は書店などで購入可能です。自分がティーンエイジャーだった頃を思い返しながら、ぜひこの写真集をご覧ください。場所や時代をこえて、自分自身とつながる何かを感じられるでしょう。
≪書籍概要≫
"Chaos"
写真:Valeria Herklotz
出版:Oui Non Editions
200部限定
155mm x 215mm
書籍サイト
≪展覧会概要≫
Tenko presents Valeria Herklotz “Chaos”
場所: RABA(〒111-0032 東京都台東区浅草7-6-1)
会期:2023年9月2日(土)~9月10日(月)
≪Artist Profile≫
Valeria Herklotz ヴァレリア・ハークロッツ
ロンドンとベルリンを拠点に活躍する写真家。『The Gentlewoman』や『Another』などの雑誌、一流ブランドのキャンペーンを手がける。
≪Curator Profile≫
Tenko
1996 年生まれ。ドイツで生まれ、幼少期をベルリン、ロンドン、東京で過ごす。セントラル・セント・マーチンズ、キュレーション学科を卒業後、渡仏。2021 年より、東京を拠点にキュレーターとして活動。2022 年より、インターナショナルなアーティストを東京のオフサイトで紹介するプロジェクト『Tenko presents』をスタートさせる。
tenkopresents.com