6月23日(金)~7月9日(日)までヒステリックグラマー渋谷店で開催されている展覧会、「Tenko presents AMALIA ULMAN×RAIKI YAMAMOTO HOT CITY PEOPLE」。ニューヨークと東京、この二つの"HOT CITY"で活動を展開するアーティスト、アマリア・ウルマンと靈樹(らいき)がフィーチャーされたこの展覧会は、都市生活の洞察とユーモラスな解釈を鮮やかに描き出している。キュレーションを務めた点子さん、そしてアーティスト二人とともに、この展覧会がどのように形成されていったのか、その裏側に迫る。
ーインターナショナルなアーティストを東京のオフサイトで紹介するプロジェクト “Tenko presents”はどのようにして始まったのでしょうか?
点子 ベルリンでは、若者が集まってオフサイトで展示をやったりしていたけど、東京はあまりそういう機会がなかったんですよね。東京という場所も地域によって全然異なる魅力の場所があるし、そこに合うアーティストも違うから、その組み合わせで展示ができたら面白いんじゃないかと思って。去年の10月に、ニューヨークのアーティストの友達が日本に来たタイミングで、一緒に彼女の個展を企画をして、それをいろんな人が見てくれたんです。それで楽しくなって、VOL.2として私の家で靈樹の個展をやったんです。
ーそして、HYSTERIC GLAMOUR(以下、HYS)での、アマリア・ウルマンさん靈樹さんの二人展に発展していったんですね。
靈樹 “Tenko presents”で最初に個展をやって、何ヶ月後かに、「またどこかでやりたいね」という話になったんだよね。ちょうどそのタイミングでHYSの北村信彦さんとお会いして、「その企画が君たちの中で熱いうちにここでやったらいいんじゃない」と言ってくださって。アマリアとは、Instagram上でずっとつながってたから、勢いでアマリアにお願いしてみようと。
点子 靈樹ともう一人加えて、二人展にしたら面白いんじゃないかと思いついて。私自身、アマリアとは共通の親しい友達も多く、話もよく聞いていたし、2年ぐらい前からInstagram上でペンパルみたいに交流していたんです。アマリアは昔からHYSの服を着てるのも知っていたし、これまで日本に来たことはないのに作品が日本と親和性があるように感じていて、彼女にお願いできたら最高だなと思って。
アマリア・ウルマン(以下、アマリア) 私も点子のセンスが好きで信頼していましたし、展示場所がHYSだということも、ぜひ参加したいと思わせてくれました。昔から大好きなブランドでしたし、私のグラフィック作品とも合うだろうなと。既存のルールを壊すようなものをリファレンスにしているところに似たようなユーモアを感じていたので、HYSと靈樹の絵画作品とのコラボレーションがさらに楽しみになりました。
ーちなみに、タイトル「HOT CITY PEOPLE」は、「熱いうちに」と言われたことからきてるんですか?
点子 そう言われたことも影響しているけれど、私にとってはダブルミーニングなんです。一つは、この街が本当に熱く燃えているということ。もう一つは、私にとって、二人は明らかにHOT PEOPLEだということ。アマリアはニューヨーク、靈樹は東京に住んでいて、どちらもカルチャーの中で常に描写されていて、それぞれの表象、リプレゼンテーションの中に生きている。二つの都市は情報が溢れてすぎていて、渦巻きが爆破する寸前のよう。都市で女性として生きることは、常に自分の価値を問い続けなくてはいけないから、興奮するし不安にもなるじゃないですか。二人の作品は、自分自身を分析しながら、それをうまくプレゼンテーションしていると思う。
ー今回改めて点子さんが、二人の作品に見出した共通点はありましたか?
点子 3人でランチしたときに気づいたんだけど、二人とも海の側で育って、都会に引っ越してきたというところが一緒だなと。都会で育った人とは異なる視点やメッセージ性がリンクしているかもしれない。明らかに都会的なもの、メインストリームのカルチャーに魅了され、影響されているような気がするし、アマリアの写真は10年前に、スーツケースを持ってホテルからホテルへ、空港から空港へと旅をしていたときの興奮が収められてる。それは私にはない感性だなと思うんです。
アマリア 間違いなく、都市に魅了されていたと思います。若い頃、地元のスペインにいるときは、いつも閉塞感を感じてました。私の作品の多くは、小さな街から出たいという野心から生まれたものですし。今はニューヨークに住んでいるから、当たり前のものと思ってしまっているけれど、それでも怠け癖を治すには、都会に戻るのが一番というか。実家に戻ると、窮屈に感じるし、10代の頃に戻ってしまったような気がして、仕事して早くここから出なきゃと感じる(笑)。
靈樹 私の場合も、祖父と祖母が画家だったので、絵画が好きじゃなかったんです。窮屈に感じて、自分が描きたいと思って絵を描いたことが15歳まで本当になかった。それと、なぜだからわからないんだけど、偶然、知らない方の不慮の事故に立ち会うことが多くて。そのときに、私がとても悲しくて辛かったのが、亡くなった方達が花も手も向けられず、ニュースでも絶対に報道されることがないということで。そこで、やっぱり、何かを伝える意味を感じたんです。その人たちがこの世を去る前に自分が何かを伝えていたら、何か変わったかもしれない。言葉じゃない方法でそれをやりたいと、そこで初めて絵を描いてみたいと思った。パフォーマンスも絵もどちらも身体的なものなので、身体を大切にしながらやっています。
ー点子さんから、お二人にリクエストはあったのでしょうか?
点子 正直に話すと、アマリアには、「シッピング代はないから、スーツケースで持ってこれるものにしてもらいたい」とお願いしました。以前から、彼女は各国のちょっとダサいホームデコや内装のためのウォールステッカーを使って展示していたので、今回は、中国、アメリカ、スペインのウォールステッカーを持ってきてもらいました。
ーアマリアさんの映像作品「Buyer, Walker, Rover」(Skype lecture /13)でも中国で製造されたプロダクツのグラフィック・デザインの中で、繰り返される傾向のパターンを見せていましたね。
アマリア そう、忘れ去られた悲しいものに魅了されて、ディスカウントショップの中国製オブジェやイメージを収集していました。この展示はユニークなものだけれど、と同時に過去10年間で、たぶん5回ほど発表しているとても好きなシリーズ作品の一部でもあって。20代の頃、いろんな都市を旅していたときの作品で、スーツケースを持った女の子のシルエットが組み込まれている。出来合いのものだから、ギャラリーにどのウォールステッカーを貼りたいか指示して、注文してもらえば、できてしまうので。私が直接訪れることができない展示にも、この方法なら参加できるところが気に入っているし、今回は、この作品が合うんじゃないかなと思ったんです。
点子 2人とも都会的で皮肉な視点があって、メディアが変わっても、ストーリーラインがつながっている。本質的に同じ世界観のアーティストだから、それぞれ持ち寄ったものを私がストーリーを読み取って、この場を用意したという感じです。情報が自然と入ってくような空間になると思ったので、入って左側はアマリア、右側は靈樹の作品と、混ぜずに分けて展示することにしました。
靈樹 展示している一番の大きな絵画は、あまり立体的じゃなく、 四角に収まりつつ、観ている側に距離が近いわけでもなく、遠近的でない雰囲気を出したかったんです。描き終わったときに、アマリアが昔携帯で撮った旅の写真を持ってくると聞いてびっくりして。そもそもこの絵画は、私が通学で電車に乗っていた時に、Airdropで送られてきた写真をもとに描いたものなんですね。世の中で飛び回りながら、携帯で撮った写真のイメージみたいなものが、ここで繋がってる!と感じて、点子に「ありがとう!」って思ったし、この展示空間自体がいいものになるんだろうなという予感がしました。
アマリア 中心から眺めると、全てがひとつにつながる感じがしていいですよね。特に、今靈樹が話してくれた2012年頃に撮った写真のシリーズは、本か何かにまとめたいと思っていたくらい特別な作品で。でもこれまで展示する機会がなかったから、今回披露できてありがたいと思ってます。
≪展覧会概要≫
Tenko presents AMALIA ULMAN×RAIKI YAMAMOTO
HOT CITY PEOPLE
会期:6 月 23(金)~7 月 9 日(日)
会場:HYSTERIC GLAMOUR SHIBUYA
東京都渋谷区神宮前 6-23-2 1F
開廊時間:11:00-20:00、会期中無休
hystericglamour.jp/news/release/10978/
≪Artist Profile≫
Amalia Ulman アマリア・ウルマン
1989 年生まれ。ニューヨークを拠点に活躍するアーティスト、フィルムメイカー。アルゼンチンに生まれ、スペインに育ち、セントラル・セント・マーチンズでファインアーツを学ぶ。現在、アルゼンチンで撮影予定の長編2作目を準備中。
amaliaulman.eu
Raiki 靈樹
2006 年生まれ。鎌倉と東京を拠点に制作を行う。2022 年にはキュレーター・点子による企画で個展『TenkoPresents:’Untitiled 1’ Raiki Yamamoto』を開催し、巣鴨にあるアートスペース 4649 での『Group Show 2022』、agnes b gallery boutique tokyo での『elective affinites part1』に参加。
Instagram @raiki.yamamoto
≪Curator Profile≫
Tenko
1996 年生まれ。ドイツで生まれ、幼少期をベルリン、ロンドン、東京で過ごす。セントラル・セント・マーチンズ、キュレーション学科を卒業後、渡仏。2021 年より、東京を拠点にキュレーターとして活動。2022 年より、インターナショナルなアーティストを東京のオフサイトで紹介するプロジェクト『Tenko presents』をスタートさせる。
tenkopresents.co