Rocky’s report from Shanghai
2023.04.24
Vol.34 地元のコミュニティとつながるFREITAG上海旗艦店
文/令狐磊 Rocky Liang
翻訳/サウザー美帆
トラックの幌を再利用したバッグで知られるフライターグ(FREITAG)の上海旗艦店が3月にオープン。チューリッヒの本店のようにブランドビジョンをリアルに体現した直営旗艦店で、商業施設が並ぶ目抜き通りではなく、路地裏にひっそりと佇んでいます。
僕は2019年初頭にチューリッヒの本店を訪れましたが、そこも繁華街ではなく、行き交う貨物トラックが見える街外れの高架の脇にありました。19のコンテナを積み重ねて構築された建物はそれ自体が展示物のようで、ブランドの核となるコンセプト、リサイクルを顕著に示すインダストリアルなデザインが印象的でした。
静安区胶州路の路地裏に現れた4階建ての上海旗艦店は、コロナで経営困難となったユースホステルをリノベーションした建物。もともと昔ながらの路地風景を窓から眺められるというのが売りのユースホステルだったので、俯瞰すると建物が地域に溶け込んでいるのがよくわかります。
建築デザインは小大建築設計事務所(小嶋伸也+小嶋綾香)とフライターグ本社のデザイナーとの共同によるもので、できるだけ多くのレンガを再利用し、CO₂排出量の最小化に焦点を当てながら建物全体が改築されました。
1階には大きな修理工房。2階と3階には上海で最大の品揃えの商品が並びます。
周囲にある古い建物は居住スペースが狭いため、キッチンやトイレが外あるいは階段の踊り場、屋上などにあり、窓からは3~5メートルの物干し竿が延びるという昔ながらの上海の景観。一方で近くにはモダンなタウンハウス風の建物などもあり、上海ならではの雑多な集合住宅の風景が見られます。
商業施設、住宅、工業用地跡(1970年代にはコミュニティスペースの一部が軽工業の工場として使われていた)が多様に混在するこの界隈では、今なお路地の入口に座っておしゃべりする老人や、パジャマ姿で犬を散歩させる巻き髪のおばちゃん、靴磨き職人、座席のない小さなカフェなどが見られて、東京でいえば下町風情を残す「谷根千」のような光景が、店舗の窓からもうかがえていい雰囲気です。
フライターグがこのような場所を選んだのは、ローカルコミュニティとのつながりを追求しているから。広々とした屋上はパブリックのテラスガーデンとつながっていて、自然環境回復事業を行う「城市荒野Forest City Studio」とのコラボで季節ごとに植物を植え、都市のオアシスとなるべく地域の人々に開放しています。
地元の植物愛好家コミュニティ「Plant South」とのコラボイベントもユニークです。参加者はフライターグのある路地に住む人ではなく、植物、つまり地面の雑草や戸棚のカビを訪ねるのです。参加者はガーデナー、植物学者、造園家、旅行作家、あるいは単なる植物愛好家の役割を担い、それぞれが見つけた植物が育つ場所を地域内で見つけ出します。地域に自生する植物を地域に再び植え直すことで、人と植物の共生の可能性を再考するというわけです。
エコを重視した商業空間によってだけでなく、地域の植栽や住人たちとの共生によって、フライターグ上海旗艦店はそのブランドビジョンをより明らかに示しているのです。