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今月の詩

空飛ぶ布団生活

2021.01.05

詩/ノブセノブヨ

布団から昇る朝日は
この世のものとは思えないほど美しくて
いつも胸が震える

親指と人差し指の輪っかで、太陽を閉じ込めたり
布団を被って、洞窟みたいにして遊んだり
毎日存分に、朝を楽しむ
そしてまた布団に寝っ転がって
空を見て、日がな一日過ごす
突如現れた、この布団生活を満喫する

こういう生活は、もう随分と長い
つまりは、布団が空を飛び始めてから
私たちの布団が、てんでばらばらに旅に出てから

最初は、ただ面白かった
見たことも聞いたこともないものが
目の前を通り過ぎていったから

でもすぐに哀しくなった
この気持ちを伝えたい人が側にいなくて

それで一日中、塞ぎ込んだりしていたけれど
寝て、起きてを繰り返すうち
それは哀しみではなく
単なる戸惑いに過ぎなかったのだ、と気が付いた

忘れたい過去の失言や
上手く付き合えなかった人のことを
思い出すことも初めのうちはあったけれど
今はもう、遠くへ行ってしまった

空の上で布団を捲ったり
枕の位置を変えたりしながら考えることは
天気や風向きのことばかり

誰かと会って放つだけのものが
胸の内からだんだんと減っていった
嬉しいことも、哀しいことも、つらいことも
もうどこからも降り積もってこないから

きっと、他の人たちも今ごろは
どこかの空を漂いながら
虹の途中を通過して、わくわくしたり
夕焼けの色に、涙を流しているのだろう

宇宙に点在する星々のように
離れたところで、静かに
お互いの存在を、ただ信じながら

わたしたちをつなげるのは
もはやわたしたちではなく
例えば星座を発見した人類のような
遠く離れた誰かなのかもしれない

寝返りを打つと
水平線の果てに、夜が始まるところが見えた

 

 

選評/大崎清夏

 冒頭がとても巧みで、あたり一面を霞のように覆うふわふわの白い布団の光景が、そうとは書かれていないのに、あざやかに目に浮かんだ。
 ありえない「布団生活」のファンタジーをふだんのことばで書こうとしている意思も伝わってくる。ぜんたいがコロナ下の生活の暗喩として読めて、想像すらできなかったはずの日々を「もう随分と長」く続けている語り手は、やさしく穏やかに、つぶさに、この摩訶不思議な生活を受けとめている。読んでいるとじわじわ、ほっとする。
 4連目、「ただ面白かった」の安易さが惜しい。面白さも哀しさも戸惑いも、きっと素直に綴られたものだろうと思いつつ、中盤はすこし詩を離れてふだんのことばに近づきすぎてしまった。布団と一緒にことばももうひとっ飛び、飛べたらよかったかもしれない。でも、朝と夜の始まりを布団の水平線の向こうに見据えながら生きていこうとする語り手には、芯を感じる。マジックリアリズムの難しさに挑戦し、ちゃんと成功していると思う。

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