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今月の詩

2019.04.01

四月

詩/橘 いずみ

卵焼きの黄色が真新しくて
つい泣いてしまいそう

新しいということが
なんでもない私を震わせて

咲くまで知らずにいた癖に
こぶしの花に見惚れている

朝方しづかに降る雨に
いくらか泣いたような気になった

選評/文月悠光

四月

とつぜん世界にフォーカスが合い(今までがぼやけていたかのように)、見慣れていたはずの景色が鮮明に迫ってくることがある。
はっとさせられるのは、心の中の景色が外に漏れだして、目の前にあらわれたように感じるからなのかもしれない。
春は、揺れうごく変化の季節。卵の命の新しさに震え、こぶしの花に一心に見惚れ、朝方の雨に涙を重ねる。
世界は静かに見えて、実はこんなにもせわしい。だって、人の心がそうなのだから。