卵焼きの黄色が真新しくて
つい泣いてしまいそう
新しいということが
なんでもない私を震わせて
咲くまで知らずにいた癖に
こぶしの花に見惚れている
朝方しづかに降る雨に
いくらか泣いたような気になった
選評/文月悠光
四月
とつぜん世界にフォーカスが合い(今までがぼやけていたかのように)、見慣れていたはずの景色が鮮明に迫ってくることがある。
はっとさせられるのは、心の中の景色が外に漏れだして、目の前にあらわれたように感じるからなのかもしれない。
春は、揺れうごく変化の季節。卵の命の新しさに震え、こぶしの花に一心に見惚れ、朝方の雨に涙を重ねる。
世界は静かに見えて、実はこんなにもせわしい。だって、人の心がそうなのだから。