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今月の詩

2019.02.01

心臓の上の肉のふくらみ

詩/t

裸で湯船に浸かっているとき
自分の性を思い知らされる
裁判を受けた気になってしまう
わたしは被告 きみは裁判官
「どうしてもっと女らしくできないの?」
「子供を産みたいと思わないなんておかしい」
「女の幸せをわかっていない」
そう言われ続ける気持ちになる
そのとき、あなたが
異議ありと言ってくれるまで
わたしはせなかをまるめつづけるよ

選評/文月悠光

心臓の上の肉のふくらみ

「肉の」という言葉から、身体の一部とは認めたくない違和感が生々しく伝わってくる。頼んでもいないのに「肉」は勝手にふくらんで、「わたし」を裁判にかけた。そこに現れたのが、女らしさを押しつける「きみ」と、その判決に異議を申し立てる「あなた」。二人とも「わたし」の中に住む存在なのだろうと感じた。
「わたし」は自分を傷つけてきた言葉を忘れたことはなかった。それに比べて、自分を守る言葉はあまりに少なかった。
まるめた背中のままでいい、耳を澄ましてごらん。「意義あり」という力強い響きが、左胸から聴こえてくるはずだ。