しろいしろい駅のホームで
小さなかたまりが ひとつ
うずくまって泣いている
気づかない振りで電車に乗った
空は馬鹿みたいに晴れていた
うらおもてなんて
作れないくらいの薄っぺらさで
それでも生きていく私
透けた体内でうごめく赤いものを
死ぬまで煩わしく思うんだろう
えんじ色のワンマン電車
古ぼけた席に座り
古ぼけた町を抜ける
思い出せないでいる何かが
まつ毛の先を掠めていく
本当は分かっているんだ
私には何もないことを
いつか藻掻くことも忘れて
なるようになったというだけの
シートと背もたれの隙間に
はさまっていた白の紙
ふうせんに折って窓に投げた
吊り上げられるみたいに飛んでいく
……ひとりで生きていけたらなあ
こころは心臓にないのに
なぜ痛むのか分かる気がして
帰ろう、と思った
あおい日だまりが頬に落ちる
空は馬鹿みたいに晴れている
選評/文月悠光
人は皆ひとりです。でも決してひとりでは生きられない、生きさせてはもらえない。だからこそ「ひとりで生きていけたらなあ」なんて、ないものねだりをする。この詩にはたくさんの〈私〉が出てきます。うずくまる小さなかたまりも、体内でうごめく赤いものも、自由に飛んでいくふうせんも、それらを疎ましく羨ましく眺める〈私〉自身も。でも彼らにも帰る場所があるのですね。〈帰ろう、と思った〉。最終連を読み、そのことに心底ホッとしたのです。