四六時中、
よろしくお願いします
と 打っていたら
指がすぐに
願いたがるようになった
目をはなすと
株価にも 球児にも
アオイロクマバチにも
願おうとするので
席を立った 川へ出た
指のあいだに風を通して
はらはら漏れる願いを乾かす
声はかけてみたけど
足は なにも願わなかった
選評/穂村弘
「四六時中、/よろしくお願いします/と 打っていたら/指がすぐに/願いたがるようになった」という冒頭から、ぴんとくるものがある。私も毎日その言葉を打っている。このような表現の背景には、キーボードによる文字入力、インターネット、メールといった、我々が共有する現代の生活環境があるだろう。つまり、手書きの時代には成立し得ない作品だ。「株価」「球児」「アオイロクマバチ」の取り合わせは、それぞれが意味的に遠く、カ行と濁音を含む音的に近い、という点で的確というかバランスがいいと思う。冒頭の「四六時中」「よろしく」も音的に響き合うので、たぶん耳のいい作者なのだろう。「指」を中心に「目」「声」「足」と続く身体感覚から離れない展開にも、くすぐったいような実感があった。