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今月の詩

2022.12.13

「わたしがうたわない日」

詩/詩村あかね

愛があればたくさんのうたはいらない
ほんとうのうたは沈黙のなかにある
わたしがうたわなかった月日には
愛が濃密にわたしをみたしていた
あまい髪の香りがわたしの鼻をくすぐり
季節のめぐりよりも
うつろう瞳に心を奪われた

ひとりでに愛はうたにならない
幸いにとらわれて
充足にうばわれて
無意識が水脈のように繋がったとき、はじめて
四肢をしなやかに動かし
その節々にちからをあたえ
とべるように、はねるように、
ふるえるように、うたに変わる。

そのうたは、広い星をめぐり、渇いた関心をうるおし
閉じた境界をおし開き、乾季ののちの雨のように
すべての場所を愛で浸潤することができる

森の時間、鳥の時間、
遠い黄土にくらす民の時間
たしかにめぐる天空の時間に
あまねく光をそそぐことができる

近頃わたしは、うたい散らかしている
からっぽの器が甲高くぶつかりあうように。

わたしは、乞う
わたしを豊穣の果実のように黙らせるもの
わたしがうたわなくてよい
その日を。