女の子たちは ときどきわたしを呼び出す
「あなたは太陽で、わたしは月なの」
どうしてそんなことを言うのだろう
そんなことを言われたら 泣けなくなるじゃないか
お弁当箱をのぞいて
今度包丁の持ち方教えてあげるよ、と笑う
男だったら恋人にしたかった、と笑う
そんなときに返すちょうどいい言葉を
すらすら言える自分がいやになる
わたしだって 本当は月がいい
もう友達はいらないから
わたしを月だと言ってくれる人がほしい
選評/高橋源一郎
「太陽と月」とペアで表現される場合、太陽はポジティヴなもの、というか自主的、積極的なものに、逆に月は受け身なものと受け取られやすい。太陽は自らのエネルギーを燃やし、盛大に発光しているが、月は何もせず、太陽の光りを反射しているだけの存在なのだと。だから「あなたは太陽なの」といわれるとほめ言葉ということになるのだが、それ、ほんとうなんだろうか。「自分」という小さな天体が放出することばというエネルギーより、宇宙全体から放射されるエネルギーをすべて受け止め、反射する方が、ずっと素敵なことだと思うんですけどね。