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Column

2020.04.15

【特別企画】今あなたにおすすめしたい、この作品。Vol.5

新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐために、不要不急の外出をひかえている今。こんなときだから、家でゆっくり過ごすときにおすすめの作品を、日ごろ花椿に協力くださっている方々にお伺いしました。

第5回は、季刊誌『花椿』夏・秋合併号で表紙、ビジュアル特集の撮影をしてくださった、フォトグラファーの濱田英明さんが”言葉”に着目して選んで2作です。作詞家・松本隆さんの活動45周年を記念して発売されたトリビュートアルバムと梨木香歩さんの小説、濱田さんの視点で触れてみてはいかがでしょうか。

これほど物理的にも精神的にも内にとどまる日が訪れるとは考えてもいませんでした。誰かとはなればなれでいなければいけないいま、言葉はますます大切になっていくのだと思います。感情や想いをできるだけ正しく伝えるために自分の言葉を持つこと。誰かの言葉を深く理解すること。少ない言葉でも最大のことを伝えられるように。今回は、そのためのヒントになるかもしれない作品を紹介してみます。

『風街であひませう』松本隆作詞活動四十五周年トリビュートアルバム〈完全限定盤〉

家に籠ってSNSを眺めているとさまざまな言葉が目に飛び込んでくる。ある人は怒り、ある人は悲しみ、ある人は祈っている。こんなときに自分は何を言えばいいのだろうと考え込んでしまい、疲れ、やがては声を失ってしまいそうになる。本作はこの半世紀を代表する名作詞家のキャリアを記念したカバーアルバムだ。同時にボーナスディスクには歌詞を淡々と朗読する俳優や歌手の声だけが収録されている。音を脱ぎ去り丸裸となったその言葉たちに耳をすますと、聴き慣れた名曲たちもまったく違う景色となって目に浮かんでくる。詞となってそぎ落とされた言葉はむしろ雄弁に秘められた心情を語りかけてくる。ああ、いま私たちに必要なのはこんなふうに自分の心を表し、そして救ってくれる「言葉」なのではないか。そう勇気づけられた。

『風街であひませう』完全限定盤(松本隆作詞活動四十五周年トリビュート、ビクターエンタテインメント)
2CD+書籍+しおり ¥4,500+税

『家守綺譚』 梨木香歩

本作の舞台は100年ほど前の日本(の京都あたり)。死んだ友人の家番をすることになった主人公が、庭のサルスベリの木に惚れられたり、昼寝をする小鬼を見つけたり、気まぐれに現れる幽霊とお喋りしたりする。そんな非現実的な日々が淡々と描かれる。飄々とした語り口にこちらも「あ、そんなこともあるか」と思えてしまう。しかし、考えてみれば近代文明が発達するよりも前の人々には自然そのものや「気」のようなものと対話する感性が当たり前のように備わっていたのではないか。わたしたちは文明と引き換えにその力を自ら放棄してきたのかもしれない。それは言葉を失ったに等しい。事情は違えどいま主人公のように家を守ることになってしまったわたしたちが、これから再び見えない存在と向き合い、言葉を交わしながらどう生き抜いていくか、そのヒントがこの作品のなかに詰まっているような気がしてならない。

『家守綺譚』(梨木香歩、新潮社)

*濱田さんが撮影してくださった、表紙とビジュアル特集が掲載された『花椿』夏・秋合併号(4月15日発行)は新型コロナウイルス感染拡大防止対策に伴い、ご自宅への郵送も受け付けています。ぜひご活用ください!
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濱田英明

写真家

1977年、兵庫県淡路島生まれ。2012年、35歳でデザイナーからフォトグラファーに転身。同年12月、写真集『Haru and Mina』を台湾で出版。雑誌や広告撮影など幅広く活動中。
http://hideakihamada.com/
https://www.instagram.com/hamadahideaki/