初めて手にした化粧品を今でも覚えている。もちろん、もっと幼い時にいたずらに口紅やマニュキアを手に取ったこともあっただろう、中学生の頃だって色付きリップクリームを愛用していた。でも、初めて「ああ、化粧品って美しいなあ」と感じたのは、高校生の頃、母の鏡台からこっそり持ち出したクレ・ド・ポーのアイシャドウだった。
ほんの出来心。ロゴマークがなんだか羊みたいで可愛くて、自分が牡羊座の未年なものだから、なんとなくシンパシーを感じてしまったのがきっかけ。でも、恐る恐る目蓋にのせてみると、あまりの色の美しさや輝きの繊細さに震えるような感覚を覚えた。何より今まで雑誌やドラッグストアでブラウンのアイシャドウを見てもなんだか地味に感じてちいとも惹かれなかったのに、ブラウンの人気の理由をすっかり理解してしまったのだ。それほどにファンデーションもつけていない、そのままの素肌にもすっとなじんで、でも思慮深い眼を演出していた。誰かが帰ってきたら怒られちゃうからとすぐに洗い流したけれど、その日はずっとふわふわと夢見心地だった。
それから5年、次にあの羊のようなマークを手にしたのは、社会人デビューを控えた3月。大学時代に様々なメイクを楽しんで、そこそこ上手に彩れるようになったけれど、なんとなくずっとまだ、まだだと思っていた。ひとつ大人になることでやっと手にする資格を、覚悟を、得ることができたのだろう。自宅で初めて買ったクレ・ド・ポーのアイシャドウを見て、ほう、と思わずうっとりとしたため息がでた。ああ、なんて美しいんだろう……。ここからどんな厳しい現実が待ち受けているかわからない、きっと楽しいことばかりではないだろう、それでもこんな宝石みたいなコスメを持っている私は、それを使いこなす私は、絶対絶対大丈夫なんだと、不思議と前向きになれた。
今では、日焼け止めや下地、ファンデーションに美容液……基礎的なものにはほとんど羊みたいなマークがついている。使い勝手がいいのはもちろんのこと、このシリーズを使っている自分が好きなんだと思う。いつも持ち歩いている口紅だって、そう。
化粧が大好きだ。コスメを愛してる。月にいくらつぎ込んでるのかあんまり考えたくない。でもそれが私には必要で、そんな自分が大好きだ。
多分きっと、あの時感じたトキメキが、今も私を駆り立てている。