もうあれから四年以上経つなんて信じられません……。審査をさせていただいた第9回shiseido art egg賞を受賞された、川内理香子さんの展示「Go down the throat」が2015年に資生堂ギャラリーで展示されました。そのときの繊細でユニークな作品は、今も記憶に残っています。白い壁にラフな感じで、絵が描かれた紙が貼られているのも素敵でした。食が細く、食べ物に強迫観念を持っているという作者の描く食べ物の絵はどこか異次元感がありました。
そもそもギャラリーは、現実逃避できる異空間でもあります。ときどき伺っている資生堂ギャラリーで、印象に残っているのは2017年の吉岡徳仁氏の「スペクトル-プリズムから放たれる虹の光線」。会場の奥に設置されたプリズムから、白い空間全体に虹が投影されるという非現実的な美しい展示です。たくさんの虹に包まれて多幸感を覚えました。何度か会期中通ってしまったほどです。
虹が人の心に作用するセラピー効果は大きいように思います。虹を見た瞬間、人生を肯定されたような感覚があり、SNSのいいねの承認欲求以上の嬉しさがあります。吉岡氏の展示では、何年か分の虹エネルギーをチャージすることができました。
物忘れしがちな私ですが、ここ最近見た虹の記憶だけは鮮明に残っています。何年か前、横浜で見かけた二重の虹。東京ガーデンテラス紀尾井町の床に落ちていた虹の光。山の上ホテルのトイレでどこからか反射していた虹。皇居東御苑で撮影した写真に映り込んでいた虹色の光。メルボルンのホテルから見た部分的な虹、など……。虹の癒し効果は人工的な色でも得られるようです。
虹について考えながら歩いていたら、パッと目に虹色のグラデーションが飛び込んできて、それが資生堂のPICOシリーズのディスプレイだったという……忖度した感じのオチになってしまいましたが、本当に偶然です。たまには冒険的なカラーに挑戦して、自分の顔からも虹色を吸収していきたいです。