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偏愛!資生堂

2017.04.19

第9回 川尾朋子 × マシェリ ヘアジュレ

写真・文/川尾朋子

黒く艶のある長い髪。

 それは平安時代において美人の条件とされていた。生まれてから一度も髪を切らずに何メートルも伸ばし続けて一生を終えることも珍しくなかったようだ。そのころのヘアケアは、大垂髪(おすべらかし・長く伸ばし垂らした髪)を櫛でとかしたり植物の液体をつけて艶を出したり、お米のとぎ汁を使用したりしていたという。このようにして私達日本女性は千年以上前から“髪”を大事に扱ってきた。

私は、自身の体を一部として文字を完成させる作品を制作している。特大筆を使い、等身大の文字を書いた紙の上に寝そべる。モニターを見ながら、文字の中で一番良い位置になるよう体勢を整える。そして、天井に設置したカメラでセルフ撮影をする。

その中で一番時間がかかるのが、“髪”。髪も身体の一部なので、これを最大限有効に使わない手はない。筆はご存知の通りさまざまな動物の毛からできている。この作品で使用する特大筆は馬の毛。長く伸ばした黒髪は、毛筆による墨の軌跡に見立てる絶好の素材であり、有機的な曲線美も大きな魅力となる。髪だけで文字の一画を表現することもあるので、私の中で“髪”は表現するための第二の筆として、とても重要な役割を果たしてくれている。この作品シリーズを制作し続けるかぎり、長く伸びた髪を切ることができないのである。

ハネの部分だから毛先をもう少しひろげようかな、トメの部分はまとめよう、顔にかかる髪はシュッとまっすぐにして、など、髪の向きや流れを細かく調整しながら、撮影を何度も繰り返す。百回以上撮影することもある。

そんなときに大活躍するのが資生堂のマシェリ。マシェリのジェルを髪に馴染ませて櫛でとかす。そうすると髪がしっとりしまとまりやすくなり、髪の一本一本に浸透し墨に近い黒さも出る。いろんな方向に髪を持っていってもからまるのを防いでくれて、撮影中は手櫛でも大丈夫なくらい。ジェルから仄かに良い香りがするのも制作中の癒しになる。

作品を書く前、精神を統一するため、目を閉じ呼吸を整え、瞑想をする時間を必ずとる。その前にする私の大事な儀式、それは、女文字である「仮名」(ひらがなの原形)が誕生した平安時代と変わらない、大垂髪を櫛でとかすことだったのだ。

川尾朋子

書家

6歳より書を学び、国内外で多数受賞。2004年より祥洲氏に師事。古典を学ぶ中で、点と点の間にある宙を舞う筆の動きに着眼した代表作「呼応」シリーズを発表。自身が文字の一部になる「人文字シリーズ」なども展開し、書の可能性を追求している。 阪急嵐山駅「嵐山」、NHK大河ドラマ「八重の桜」OP映像、NHK Eテレ「趣味どきっ!」講師、TEDでのパフォーマンスなどあらゆる媒体に登場する文字や墨表現を手掛け、好評を得ている。京都在住 四国大学特任教授。