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偏愛!資生堂

2016.06.14

第2回 穂村 弘 × 現代化粧百態繪端書

資生堂のデザインのファンだ。美しい宝物を獲得するために、インターネットのオークションサイトをパトロールしている。「資生堂 意匠部」「資生堂 山名」「資生堂 仲條」などが検索のキーワードである。山名は山名文夫、仲條は仲條正義、憧れのデザイナーたちだ。そんな努力の結果、絵葉書、マッチケース、HOMECALENDER(ご家庭暦)、白粉ケース、コンパクト、包装紙他を入手することができた。でも、これはというものに限って、見えないライバルに競り負けることも多い。

 『花椿』で連載させていただけるようになった時は、嬉しかった。関係者の方々に向かって、資生堂デザインへの愛を告げ、収集の苦労を語り、「葉書一枚が数万円になっちゃって諦めることもあります」と愚痴ると、「弊社の企業資料館でも集めていますから……」という答えが返ってきてびっくりした。なんと、見えないライバルの中に本家が混ざっていたとは、ぐううう、そんなの太刀打ちできるわけないじゃないか。

「現代化粧百態繪端書」(絵葉書) 1935年ごろ 穂村さん所蔵

最近の収穫は「空の旅」と題された絵葉書だ。プロペラの飛行機とトランクを持った女性の姿が描かれている。イラストレーターは沢令花だろうか[※1]。この「現代化粧百態繪端書」というシリーズは、「百態」というだけに、女性が普通にお化粧しているデザインの他に、ダンス、スケート、ゴルフ、乗馬、ボートなど、当時のモダンな風俗が描かれているところが魅力。だが、その中でも飛行機となると、格段に入手が難しくなる。何故なら、資生堂マニア、絵葉書マニア、の他に、新たに飛行機マニアが参戦してくるからだ。三つ巴の戦いに歯を食いしばって入札、とうとう勝ち抜いた時は嬉しかった。でも、この宝物も、資生堂の企業資料館には何枚もあるんだろうなあ。

「現代化粧百態繪端書」(絵葉書) 1935年ごろ 資生堂企業資料館蔵
※1「現代化粧百態繪端書」は1935年ごろ、当時資生堂意匠部に在籍していた前田貢のほか数名が描いておりますが、飛行機のイラストレーターは不明です。(資生堂企業資料館)

穂村 弘

歌人

1962年札幌生まれ。1990年歌集『シンジケート』でデビュー。エッセイ、評論、絵本、翻訳なども手がける。著書に『ラインマーカーズ』『世界音痴』『蚊がいる』『ぼくの短歌ノート』『にょっ記』『絶叫委員会』など。近刊に『鳥肌が』がある。