キッチンに立ち、ラジオの電源を入れる。
おじいちゃんが入院していたときに使っていたラジオで、今となっては形見のようなとても大切なもの。
いつもその大切なラジオから流れてくるいろんな人の声を聴きながら、料理をするのが私の決まりごと。
もうひとつ決まりごとがあり、炊飯器のスイッチを押してから炊けるまでの間に料理の全てを完成させるということ。
結婚当初はその時間内に作り上げられることはほとんど無かったが、今では、ご飯が炊き上がるのを待ったりもする。
ちょっとしたマイルールをゲーム感覚で取り入れると毎日の家事も、少し楽しめるような気もする。
しかし365日の毎日が、楽しさで続くことはなかなか難しく、日々は嬉しみや悲しみ、元気なときや疲れたとき、 数え切れないほどのたくさんの感情で出来上がっている。
どうしても疲れ果ててスーパーに行くことも体が拒否した日、 キッチンの棚をゴソゴソすると、資生堂パーラーのコーンポタージュが入ったオレンジ色の箱が出てきた。
レトルトをナメてはならない、このスープの美味しさを私は知っている。
このあま〜い美味しいスープと、青い箱に入ったビーフカレーがこの日の夜ご飯。
せめてもの茹で卵と、前日の酢の物もテーブルへ。
胃の中が美味しさで充満し、頭の中に資生堂パーラーのキラキラした店内が浮かぶ。
疲れた体に美味しさが沁みて、クリーミーで優しいコーンポタージュがスーパーマンのように思えた。
頑張り続けることは難しいし、たまには何かに頼って手軽に「美味しい」を手に入れるのも贅沢なことだと知った。
時間をかけて美味しいご飯を作り、丁寧に暮らすことも、 頑張り過ぎずどこか楽をして、丁寧に暮らさないことも、 毎日「美味しい」をテーブルに載せ続けるには、どちらも大切なのだ。
今日も我が家のキッチンの棚にはクリーミーなスーパーマンが待機している。