次の記事 前の記事

インタビュー

2022.11.01

「マイ・ゼロ・ストーリー」 第6回 アエロシン-レックス・メストロヴィック

 

好評をいただいている連載、「マイ・ゼロ・ストーリー」。
花椿編集室がいま会いたい人にお会いして、その方の現在の活動の原点となった出来事や刺激を受けたこと、そして現在とこれからについてなど、たくさんのことをお聞きします。

第6回は、アーティストのアエロシン-レックス・メストロヴィックさん。
アルゼンチンのブエノスアイレス出身で、ニューヨークと東京を拠点に活躍しているレックスさんは、多様なルーツから生まれるユニークなアート作品で高い評価を受けてきました。資生堂のグローバルブランド「SHISEIDO」のプロモーションに参加されたレックスさんに、ご自身のルーツやこれからの挑戦について伺いました。

東京への留学で得たもの

 ブエノスアイレスで幼少期を過ごしたレックスさん。「最初の記憶のひとつが、絵を描いている自分の姿」というほど、幼いころはいつも絵を描いている子供だったそう。4歳のころにフロリダに移住し、高校生になると本格的にアートを学び始める。
 「そのころは抽象表現主義の先生と、より伝統的なタイプの写実主義の先生、2人の画家から個人指導を受けていて、そのどちらからも強い影響を受けましたね。ティーンのころをマイアミやフロリダで過ごしたので、グラフィティなど西海岸のカルチャーもすごく自分に染み込んでいると思います」。
 フロリダでアートを学んだのち、10代の終わりには美術大学プラット・インスティテュートに入学するためNYに移住。プラットでは意外にもファッションを学んでいたそう。
 「絵画はいつでも僕の一番の情熱なんですが、ファッションでは服づくりそのものからチームワークでの作業など、クリエイティビティの異なるアウトプットを学ぶことができました。いまでもファッションは大好きでファッションブランドとも多く仕事をしています。ファッションではビジュアルが生地になったりインスタレーションになったりとより立体的に変化し、他のメディアとコラボレーションすることができる。そこに楽しさを感じています」
 そんなレックスさんは学生時代に東京に留学。アメリカと全く異なる環境に大きな刺激を受け、その体験がその後の制作スタイルを大きく形づくっていくこととなった。
 「東京に着いたはいいけれど、住むはずだった学生寮がいっぱいになってしまって、赤坂のウィークリーマンションに住まいをあてがわれたんです(笑)。若者のアメリカ人からしたら赤坂は都会の真ん中。突然そんな生活が始まり、当時は携帯もないし日本語も読めないしで、ひたすら街をうろうろしながら体全体で都市を感じ、学ぶ日々を過ごしました」
 元々小さなころから日本のポップカルチャー、アニメ、ビデオゲームに夢中だったというレックスさん。
 「日本での生活の中で、自分のルーツであるアートへの関心のままに、日本の美術や文化を吸収することが叶い、その中でも特に書道に衝撃を受けました。カリグラフィーを学んだ経験もあり、グラフィティも見て育っていましたから『書く』という表現行為がすごくしっくりきて。日本では書の師範のもとで学びました」

カルチャーをミックスする

 世界を自由に飛び回りながらその土地の文化を吸収し、表現へと昇華していくのびやかなスタイルは、なんとも爽快。
 「僕のクリエイティビティにはいつもカルチャーをミックスすることが前提としてあるんです。父方のルーツであるクロアチア、自身が生まれたアルゼンチンというラテン文化、マイアミ、そして日本の文化。それぞれが混ざり合い、矛盾なく共存する。それを可能にする懐の深さもアートの魅力だと思っています。そんなふうにあらゆるルーツを含んだアート作品が、人と人をつないでいくんだと信じています」そのエネルギーのもととなるのは、アートを信じる純粋な心。「アートには世界中の誰とでも共有できて、人をつなげることができるポジティブな力がある。その創造的なインパクトを活かして、コマーシャルな活動だけではなくチャリティや文化交流にも力を入れていますし、カルチャー全体をつなげるような活動を続けていきたいんです」
 日本とのつながりも深いレックスさんにとって、今回資生堂とのコラボレーションは特別なものだったそう。
 「今回のコラボレーションを踏まえてあらためて資生堂の歴史について学びました。150年という長い間、日本の伝統的な美の概念を現代的な感覚にアップデートしつつ、西洋の美の感覚とフュージョンさせてきたブランドは他にありません。今回、実際のプロダクトから着想しユニークなアウトプットを考えるというのは大きなチャレンジでした。僕なりの表現、と考えた上で、アイライナーを使ってカリグラフィーを表現したり、水彩画のようにパレットを使ったり…とても刺激的でした。」
 好奇心を失わないレックスさん、いま楽しみにしていることとは?
 「僕の喜びは、ライブパフォーマンスでも、ギャラリーでの展示でも、イベントのキャンペーンビジュアルでも、作品を通して人と人をコミュニケーションさせること。世界を移動しながら、作品をハブに人が集まりつながることに自分の作品の意義がある。それがここ数年コロナで本当に難しかったんです。だから今世界が徐々に元に戻ろうとしていて、本当にエキサイトしています!」

花椿編集室からのQuestionに、レックスさんが答えてくれました

Q . 子供のころの夢は?

僕のアイデンティティのコアはいつもアートにあった。4歳のときから絵を描くことに夢中だったよ。僕がいなくなってもこの世に残る作品を残したいって、ずっと思っていた。

Q . 落ち込んでいる人に声をかけるとしたら?

自分を信じて!僕はスピリチュアリティや見えない力ってものを信じている。ポジティブな側面だけを見つめて、前に進み続けるっていうことが大切だと思う。

Q . いま、行ってみたい場所は?

過去に行ってみたいな。ドラえもんのタイムマシンみたいに。自分がこれまで身につけてきた知恵を昔の自分に教えてあげられたら良いよね。

Q . 1日のうちであなたにとって一番大切な時間は?そしてその理由は?

絶対に、夜!夜って一番クリエイティビティが刺激されると思う。特に静かでミステリアスな夜に一番インスパイアされるかな…

Q . 「美」ということばからイメージすることとは?

美しさはいつでもインスピレーションに満ちている。自分のクリエイティブなアウトプットの原動力となっているのは、美そのものだと思う。これまでの長い歴史の中でもアーティストはつねに美をどうやって新しい伝え方で表現するかを模索してきた。僕もそんな仕事ができたらいいなと思っているよ!

アエロシン-レックス・メストロヴィック
/アーティスト。アルゼンチンのブエノスアイレス出身。現在はニューヨークと東京を拠点としており、日本国内でも個展の開催やミュージシャン、企業とのコラボレーションなど多岐にわたって活躍中。2022年には資生堂のグローバルブランド「SHISEIDO」とコラボレーションを実施。その様子は本人のインスタグラムアカウントからも見ることができる。
ウェブサイト
インスタグラムアカウント

撮影:嶌村吉祥丸
インタビュー:深井佐和子