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インタビュー

2022.08.12

「マイ・ゼロ・ストーリー」 第3回 ケリー・オサリヴァン

好評をいただいている連載、「マイ・ゼロ・ストーリー」。
花椿編集室がいま会いたい人にお会いして、その方の現在の活動の原点となった出来事や刺激を受けたこと、そして現在とこれからについてなど、たくさんのことをお聞きします。

第3回は、俳優で脚本家のケリー・オサリヴァンさん。

俳優として、舞台、テレビ、インディペンデント映画で活躍する彼女が初めて長編映画の脚本を手掛けた『セイント・フランシス』が8月19日から公開します。
演じる側だった彼女が映画の制作をはじめたきっかけ、次なる挑戦についてお聞きしました。

ユーモアをもって描く私の、そして誰かの物語。

 長らく役者を続けながらも、ちゃんとした役を演じられないことにコンプレックスを感じていた俳優ケリー・オサリヴァンさんが、「私、物語を書く!」と筆を執ったのは、同世代の俳優、脚本家で映画監督のグレタ・ガーウィグが撮った『レディ・バード』を観たことがきっかけだという。
「全然違う場所で育ったけれど、彼女自身の経験が詰まった物語が自分の人生に重なって、自分もそんなふうに書いてみたくなったんです」
 初めて脚本を手がけた『セイント・フランシス』は、実生活で子どもの世話をするナニーの仕事をしていた経験も活かし、ナニーと家族だからこそ築ける親密な関係を、年齢、肌の色、宗教、性的指向、環境といった違いを飛び越え描く。

「職業柄、本当にいろんな女性たちに囲まれているので、世代も人種も超えた、非異性愛規範の女性たちの輪を描くのは自然なことでした。たくさんの異なる特徴や経験、考えを持った女性が同じ部屋にいて、互いの経験をシェアする話にしたかったんです」
 本作で彼女は、夏の間だけ、同性カップルの6歳の娘フランシスのナニーとなる、34歳、独身の主人公ブリジットを演じている。
「実生活で中絶を経験したのですが、手術をするものだと思っていたら薬を飲んだだけ。私の場合、中絶のプロセスはそれまで物語で見てきたようなトラウマ的なものではなかったんです。そこで、中絶に対するスティグマを植えつけるような産むか産まないかを選択する物語ではなく、早い段階で中絶をした主人公をめぐるコメディを書いたら面白いんじゃないかと思いついて」
 出会ったばかりの相手との予期せぬ妊娠が発覚したブリジットは、迷うことなく中絶を選ぶ。
「私は子育てが常に幸せなものだとは思っていません。本当に大変そうにしている親になった友達を見て、自分も子どもを持つことが怖いし、それでもいつかはと希望を抱いたりもします。複雑な感情が入り混じっているのが普通で、それでいいと思う」
 そして、生理現象として度々登場するのが、暴力とは無関係の、膣から排出される血液。
「基本的な身体機能にもかかわらず、恥ずかしいこととして思わされてきた生理についても、もっとオープンに話したかったんです。セックスした翌日、シーツが汚れているシーンも、突然、生理になってしまった実体験から来ているんです」
 彼女のプライベートのパートナーで、本作の監督でもあるアレックス・トンプソンさんは、彼女が自身の身体の変化についてオープンに話せる相手なのだとか。「彼は女性特有の話をしても不快に思わないので、恥ずかしがることなく話せる最高のパートナーです。今回、監督としていろんな生理用ナプキンやタンポンをリサーチしたり、美術チームがつくった下着についた血の色の濃さについて議論している姿を見て、まさに生理を非スティグマ化するプロセスだと思いました(笑)」

 全米で本作が公開されたとき、未熟に思えるブリジットに「共感した」と話してくれたのは、意外にも成熟した大人に見える人だったという。
「この物語を書いているうちに、きちんとした大人に見える人も、実はそう見せかけているだけ、という結論に達しました(笑)。キャリアや家庭、持ち家があったとしても、想像もつかないような問題を抱えていることもあるし、社会やSNSが与えるプレッシャーに苦しんでいる可能性もありますから」
 脚本で才能を開花させた彼女の次なる挑戦は、自分の書いた物語を監督すること。
「私は映画学校に行っていないので、技術面での不安もありますし、監督をすることが怖いという思いがある。でも同時に、これから学べることに興奮もしていて。俳優も続けるつもりではありますが、今は、脚本とカメラの後ろで監督をするほうが楽しいですね。新作は、アレックスと共同監督をするんですが、私の故郷アーカンソー州を舞台にした、女子高生のユーモラスな友情物語なんです。願わくば、人間的な面白さのある作品になればいいなと」
 とっちらかっていて当たり前。そう笑顔で語る彼女のユーモアセンスは素直で、優しく、勇敢だ。
「現実でも、泣いてばかりいるんじゃなく、ユーモアでバランスを取ろうとしたりしますよね。私はそういう、リアルなコメディ感が好きなんだと思います」

『セイント・フランシス』
8月19日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
https://www.hark3.com/frances/

監督:アレックス・トンプソン 脚本:ケリー・オサリヴァン
出演:ケリー・オサリヴァン、ラモーナ・エディス・ウィリアムズ、チャリン・アルヴァレス、マックス・リプシッツ、リリー・モジェク 
2019年/アメリカ映画/英語/101分/ビスタサイズ/5.1chデジタル/カラー
字幕翻訳:山田龍  配給:ハーク 配給協力:FLICKK

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花椿編集室からのQuestionに、ケリー・オサリヴァンさんが答えてくれました

Q . 子供のころの夢は?

俳優になること……か、シャチに関する仕事につく。

Q . 1日のうちであなたにとって一番大切な時間は?そしてその理由は?

まだ誰も起きてない朝。静けさが好きだから。

Q.落ち込んでいる人に声をかけるとしたら?

その気持ち、とっても分かるよ。その気持ちって一時的なものだから、しっかり受け止めてあげればそれでよいと思うよ。

Q . いま、行ってみたい場所は?

今まで見た中で一番きれいな場所……アイルランドにまた行きたい。

Q . 「美」ということばからイメージすることとは?

自分にとって、「美しさ」とは、「ハッ」として動きを止めて期せずして「ワォ!」と言葉を発してしまうような何か。それは些細なことであってもよく、些細なこと、小さなことが私にとっては最も美しいこと。

ケリー・オサリヴァン
俳優、脚本家。アーカンソー州ノースリトルロック出身。『セイント・フランシス』が初の長編映画脚本となる。俳優としてはステッペンウルフ・シアター、グッドマン・シアター、ライターズ・シアター、パシフィック・プレイライト・フェスティバル、Ojai Playwrights Conferenceで舞台に立つ。テレビ出演には「Sirens」の2シーズン、映画出演にはインデペンデント映画の「Henry Gamble’s Birthday Party」 「Olympia」「 Sleep with Me」などがある。ノースウェスタン大学、ステッペンウルフ・シアター・カンパニー付属の演劇学校を卒業、プリンセスグレース財団の劇場向けの奨学金を受け、3Arts Make a Wave(シカゴを中心にしたアーティスト間の寄付プログラム)の受賞者でもある。

インタビュー・文/小川知子