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インタビュー

2022.09.06

「マイ・ゼロ・ストーリー」 第4回 イシヅカユウ

 

好評をいただいている連載「マイ・ゼロ・ストーリー」。
花椿編集室がいま会いたい人にお会いして、その方の現在の活動の原点となった出来事や刺激を受けたこと、そして現在とこれからについてなど、たくさんのことをお聞きします。

第4回は、モデルのイシヅカユウさん。

モデルとしての活動に加えて、テレビ番組や映画出演など多岐にわたって活躍されているイシヅカさんが、ご自身の美への価値観やこれからチャレンジしたいことについて、お話をしてくださいました。

自分のために、社会のために美を通してできること。

 「小学校のとき、抜毛症(繰り返し自分で毛を抜いてしまう症状)を抱えていて、学校以外ではずっと帽子を被っていたんです。被っていると安心できたので、身につけるものの力を感じ始めました。ただ防御する鎧とは違って、心を優しく包んでくれるお守りのような効果があるんだなって」
 そう話すのは、ファッションモデルのイシヅカユウさん。
 古いCMや雑誌を見るのが好きで、10代は山口小夜子、ティナ・ラッツ、バニー・ラッツ姉妹らが出演する広告に夢中になった。
 「広告はどちらかというと大衆に寄り添ったものという印象がありましたが、特にウーマンリブの時代、60年代の資生堂のCMには、それまでの日本の文化にはなかった美しさや装う楽しさを感じることができて、そこに惹かれたんだと思います」

 その後、服飾の専門学校に進んだものの、家庭の事情で中退することになったイシヅカさんは、ヘアモデルの仕事を通じ、〝着る人〟として洋服に関わる楽しさを見出していく。現在は、番組MC、執筆など多方面で活躍する彼女。トランスジェンダー当事者の女性俳優を公募した映画『片袖の魚』(21)で主演を獲得したことも後押しし、俳優として表現の場も広がった。だが、軸はファッションモデルからブレることはない。
 「名乗るときはファッションモデルと言っています。私は、服の表現方法って独特だと考えていて。そこに光があり、ヘアメイクがあり、着ているものの形や素材がそれまで自分が培ってきたものとケミストリーを起こし、新しい動きが生まれる。ある種、服に自分が取り憑かれるような気持ちよさがある。なので、俳優をやるときも文字を書くときも、割とそういう考えをベースにしています。結局、この身体で表現するわけですから。もっとプロポーションがいいモデルさんもたくさんいらっしゃるなかで、自分がやる意味を俯瞰して考えるのが楽しいんですよね。どんなお仕事でも、こうありたいという自分に課したハードルを越えられず、終われば反省ばかりしていますが、だからこそ続けられているのかなと」
 活動が多岐にわたるにつれ変化したことのひとつは、自身の美への価値観かもしれない。

 「以前は、純粋にビジュアルとしての美しさを求めがちでしたが、本当にそれだけが美しさなのかという問いが生まれたんです。世の中のあり方や社会情勢に対して、自分が発信していくことも美しいことのひとつと思えるようになって。もちろん、私一人で変えられることではないので、活動を通して、社会がよりよくなるためにはどうすればいいだろうと考えて発言するようになりました。それで自分自身も救われるし、それを見た人が救われる可能性もあるのかなと」と同時に、自分の心を守ることを以前より意識するようになったとイシヅカさんは言う。
 「ありがたいことですが映画を通じていろんな人に存在を知っていただけたことで、発言をしなくても当事者代表として祭り上げられそうになって、そのときに、危険だなと感じました。それまでは、他の人が傷つくのが嫌だという使命感で表に出ていた部分もあったのですが、自分をちゃんと守れて初めて周りにも何かできると感じたし、何においてもそうですが、何かを一人に背負わせることはヘルシーではないなと。それぞれが生きやすいことが大事。それも、映画でいろんな人との出会いがあって、お話しするなかで気づきを与えてもらえたなと思っています」
 彼女の次なるチャレンジは、俳優としてあらゆる役に挑戦することと、海外を知ること。
 「台湾にしか行ったことがなくて、もっと海外を旅したいなと。どうしてもトランスジェンダーであるが故に行きにくい国もあって、それを言い訳に保守的になっていたんです。でも、ちょっとずつ自信がついてきたので、いろんな国でダイビングしながら魚を見てみたいです」
 魚と鳥に惹かれるのは、幼少期から変わらない。山口小夜子がランウェイを歩く姿を初めて見たときも、熱帯魚のようで見惚れたとか。
 「得体が知れないものって怖いじゃないですか。でも目が離せない。それは美しいものに対して感じることと一緒だなと。自分もそういう存在を目指しているのだと思います」

花椿編集室からのQuestionに、イシヅカユウさんが答えてくれました

Q . 子供のころの夢は?

Q . 落ち込んでいる人に声をかけるとしたら?

Q . いま、行ってみたい場所は?

Q . 「美」ということばからイメージすることとは?

イシヅカユウ
/静岡県浜松市出身。ファッションショー、スチール、ムービーなどさまざまな分野で個性的な顔立ちと身のこなしを武器に活動中。2017年、映画『蹄』で映画初出演にして主演を果たす。主人公を演じた短編映画『片袖の魚』で、KASHISH Mumbai international Queer Film Festival 国際コンペ部門、最優秀主演俳優賞を受賞。静岡新聞のコラム欄「窓辺」で2022年4月から6月の3ヶ月間、水曜日の担当として執筆を担当した。

撮影:嶌村吉祥丸
ヘアメイク:寺田祐子(SHISEIDO)
インタビュー:小川知子