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GIRLS ROCK BEGINNINGS

2022.04.07

GIRLS ROCK BEGINNINGS Vol.08 YOU[前編]

撮影/鋤田正義

取材/山中聡、君塚太 文/君塚太

ヘアメイク/諏訪部留美

 音楽や映画、演劇などの世界で息長く活躍し続ける女性たちが、初めて自分の好きな文化を知った瞬間を語ります。未知の作品に出会い、日々の生活が大きく変わっていった実感。未来への扉が開かれ、一気に可能性が広がっていった体験。彼女たちのイノベーションには、あなたのワナ・ビー=自分はこうなりたいと願う理想像を実現させるためのヒントが溢れています。
 第8回のゲストは、YOUさんです。YOUさんの活動を振り返ってみると、つかみどころがないほど幅広い表現に携わってきたことに驚かされます。スカウトをされて始めた仕事はモデル、その後シンガーやロックバンドの一員としてデビュー。テレビのバラエティ番組の最前線にも立ち、国内外の映画祭で多数受賞を果たした是枝裕和監督『誰も知らない』に出演以降、女優としても高く評価されています。
よく「自然体」という形容で語られるYOUさんですが、彼女のそれはありのままの自分を出すことを優先させる姿勢ではなく、関わる作品に身を委ね、柔らかに変化していく独特な自然体です。だからこそ幅広いジャンルで活躍し続けられるのでしょう。そんなYOUさんの姿勢はどのように培われたのでしょうか? デヴィッド・ボウイ、T. REX、YMOなどのミュージシャンを撮影し、今もなお世界各国で写真集が出版、個展も開催されている写真家・鋤田正義さんの撮り下ろしポートレイトと併せて、YOUさんの言葉を味わっていただければと思います。
 今回の鋤田正義さんの写真は、自身が撮影したロンドンのストリートスナップとYOUさんのポートレイトを組み合わせたもの。小泉今日子さんにご登場いただいた本連載第6回のときも「せめて気分だけでも海外旅行を楽しんでもらえれば」という鋤田さんの発案で使われた手法ですが、以降も世の中の状況が大きく変わっていないことを踏まえて、YOUさんにもトライしていただきました。「作品に身を委ね、柔らかに変化していく」YOUさんの姿をお楽しみください。

「お稽古事全盛期」だった子ども時代

 私の子どもの頃は、お稽古事を4つくらいやっているのが、当たり前ではあったんです。私が育った武蔵小金井周辺でも、どこの家庭も教育熱心だったというか、まあ、時代的に高度成長期ですから。私も3歳でクラシックバレエを始めて、4歳からはピアノ。あとは水泳、絵画、書道を習っていました。
 私はひとり娘でしたしね。当時は女の子のほうがお稽古事に行かされていたんじゃないかな。男の子はまだ野球に夢中だった時代ですから。私の場合、バレエは親が習いに行かせたというより、近所にあったバレエの稽古場をお散歩中に見て、自分でやりたいと言い出したそうですけれど。
 だからバレエの公演を観たり、クラシック音楽を聴きに行ったりはしていました。父が休日にリビングでレコードをかけていたので、家ではクラシックとか、ABBAみたいなポップスのヒット曲や歌謡曲もずっと流れていました。映画は……今、思い出した、最初にハマった洋画は『小さな恋のメロディ』ですね。小学校の低学年の頃かな、主演のマーク・レスターとトレイシー・ハイドが好きで、3回くらい映画館に観に行きましたね。

有吉佐和子を読む、こまっしゃくれた娘

 本を読むのは好きでした。最初は父の書棚を覗いて読み始めたのだと思いますが、小学生のときは授業が終わると図書室へ直行していました。ゴム段飛びみたいな子どもらしい遊びは一切やったことがなくて。
 小学校の途中で転校してから、友だちとうまく交われなかった時期があったんです。その時期はオーバーに言えば誰とも口きかないような状態で、図書室でずっと本を読んでいましたね。いとこのお兄ちゃんの影響で星新一さんの作品を読み始めて、高学年になったら有吉佐和子さん。ちょっとこまっしゃくれた娘だったんです。図書室では新約聖書とか読破していましたから(笑)。人生で一番頭がよかった時期かもしれない。すべてが未知で新鮮だし、まだ実際には理解ができなかったけれど、とにかくなんでも吸収していた時代ですね。
 しばらくしたら親友ができて、暗い時期は抜け出したんです。頭がよくて可愛くて、とても素晴らしい子で。親友と出会ったり、すごくリスペクトできる国語の先生が担任になったりして、学校が楽しくなりました。私が書いた文章を先生がほめてくださったのもうれしくて。今考えると、私だけではなくて、いろいろな生徒のことをほめていたのだと思いますが、担任の先生のおかげで国語はずっと好きでいられました。作文も好きだったし、日記をつけたり、詩みたいなものも書いていましたし。

洋楽ロックと出会って変化した毎日

 中学に入学するあたりから、ちょっと生活が変わってくるんです。ベイ・シティ・ローラーズに出会ったのが小6。クイーン、キッス、エアロスミスが中1。ロックを聴き始めて、洋楽に染まっていきました。『ミュージック・ライフ』とか『ロック・ショウ』とか洋楽雑誌は全部読んで、生まれて初めてのコンサートにも行って……最初はベイ・シティ・ローラーズのフィルムコンサート、今のオンラインライブみたいなものですね。場所は市民ホールみたいなところだったと思いますが、演奏している姿を観るのは初めてだから興奮しちゃって、スクリーンに向かって奇声を発していました(笑)。来日した中1の頃には、子どもなのに武道館にコンサートへ行ったりとか、メンバーが宿泊しているホテルの下で叫んだりもしていましたね。
 好きだったメンバーはウッディ(スチュワート・ウッディ・ウッド/主にベース担当)でした。ヴォーカルのレスリー(・マッコーエン)じゃないんですよ。 (人気メンバーだった)イアン(・ミッチェル)でもパット(・マッグリン)でもなく、ウッディという渋いところが好きになるんです。イアンは少し気になったけれど。テストの解答用紙の名前を記入するところに「ユキコ・ウッド」とか書いたりして。ホント、頭がおかしいとしか思えないですよね(笑)。

武道館での興奮「ヤバイ、本物だ」

 ベイ・シティに夢中にはなったけれど、追いかけていた期間は、わりと短かったな。中学時代の軸はクイーンでしたね。クイーンの場合は、アイドルというより、ちゃんとロックを聴いている感覚。音楽をじっくり聴いて。来日コンサートを武道館で観たときは「ヤバイ、本物だ」(笑)としか考えられなかったですけどね。
 邦楽で聴いていたのはユーミン、松任谷由実さんでした。なんと言うか、詞の世界もステキで、洋楽と比べてもお洒落で。ユーミンが好きな文学を読んでみたりもしていました。
 歌謡曲も普通に聴いていましたよ。松田聖子さんの曲はだいたい今でも歌えたりします。でも、比較すると中学時代は圧倒的に洋楽。ロック。女子だけでバンドもやろうとしたんですけれど、全員ピアノしかできなくて。みんなすごく達者ではあったんですが、ピアノばっかりじゃバンドにならないので、あきらめました。

原宿の陸サーファーになっても朝練は続く

 ロックに夢中になっても、中3まで本当に頭よかったんですよ。テニス部にも入ってちゃんと練習もやりつつ、内申書の点数だけで高校に入学できるくらいの成績はとっていました。でも、受験して実際に高校に行くようになったら急降下。そこからはもう、ずっとバカ(笑)。不良の道に入っていきました。
 ファッションもバリバリで、原宿に遊びに行くようになって、高1デビューですよ。急にスカートが短くなって、髪の毛を流し出して。ハマトラ、ニュートラ、高2から陸サーファーです。竹下通りは中3くらいから日曜日にお友だちと行って、クレープを食べていましたけれど、高2になると原宿で制服を着替えて、海へ行っちゃうみたいな。
 高校でもテニス部に入って、マジメに練習にも出ていましたが、不良もやっていたから、本当に毎日3時間くらいしか寝てなかった。新宿のディスコで夜中まで遊んで、朝練にも行っていましたから。
 高校時代にモデルとしてスカウトはされましたが、まあ、そういう時代だったというか、友だちのあいだでも珍しいことではなかったんです。クラスに可愛い子は多かったし、5人くらいスカウトされていましたね。たいした活躍はしていなかったとはいえ、モデルの仕事は結構ありましたね。バブルで事務所も景気がよくて、撮影会みたいなものをよくやっていましたし、普通にコマーシャルや雑誌にも出ていました。アルバイトとしては、いい仕事だったと思います。

記憶の記録LIBRARY

YOU

ミュージシャン/タレント/俳優

東京都生まれ。18歳でモデルを始め、その後、歌手や女優として活動。1988年、ラジカル・ガジベリビンバ・システムの舞台に出演し、同年FAIRCHILDの結成に参加。ヴォーカルと作詞を担当。93年の解散までに7枚のアルバム(うち1枚はベスト盤)をリリース。また、ソロシンガーとしてもオリジナルアルバム『カシミア』(94年)、『南向き』(94年)を残し、作詞家として他アーティストにも作品を提供。91年の『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)出演以降は、数多くのバラエティ番組にレギュラー出演。2004年公開の映画『誰も知らない』(是枝裕和監督)では、第78回キネマ旬報ベスト・テン助演女優賞を受賞。その後の映画出演は、06年『THE有頂天ホテル』(三谷幸喜監督)、08年『歩いても 歩いても』(是枝裕和監督)、13年『中学生円山』(宮藤官九郎監督)、18年『走れ!T校バスケット部』(古澤健監督)他。TVドラマへの出演も多く、近年では連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK)、『じゃない方の彼女』(テレビ東京系)がある。舞台出演は、11、14、18年『美輪明宏版 愛の讃歌~エディット・ピアフ物語~』(ル テアトル銀座他)、12年『ハンドダウンキッチン』(パルコ劇場他)など。雑誌連載も多く、著書には10年『しまいどころいろいろ』(学研プラス) など。