銀座の通りを歩いていると、着物に身をつつんだ人とすれ違うことがあります。歌舞伎座や新橋演舞場で観劇のためだったり、何かの祝賀会に参加するためであったり、或いは、銀座を晴れ着で歩くこと自体を楽しんでいる方もいらっしゃいます。着物の模様や配色には季節が映し出されていることが多いので、この観点からも、銀座の街には季節があらわれます。
襦袢、帯、帯留など、着物をかたちづくるもののなかでも、今回は、草履に注目してみました。草履は、着物を足下から支えます。考えてみると、専門店からデパートまで、銀座ほど多様な草履がそろっている街はそうはありません。
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銀座4丁目の呉服店「銀座もとじ」(*)の泉二啓太さんに草履について興味深いお話をお聞きしました。「現在は小さい履きものにかかとを出して履くのがスタンダードですが、江戸時代の浮世絵を見るとジャストサイズで描かれていることが多い。ジャストサイズの方が楽に感じるが、小さいサイズにかかとを出して履いた方がいい、という判断がどこかでなされた」。そして、「草履が洗練されていると全体がひきしまります」と続けて話してくれました。上の写真は「もとじ」で扱っている草履のなかのひとつで、あかい前坪が目を引くのが特徴でしょう。職人が一つ一つの工程を大切に仕上げた一足。
以下の写真の草履は、着物を愛用する石内都が銀座の専門店で求めたものです。そして今年正月元旦、「学術、芸術などの分野で傑出した業績をあげ、わが国の文化、社会の発展、向上に多大の貢献をされた個人または団体」に贈られる朝日賞に、石内が選ばれたことが発表されました。(この連載を一緒に担当させてもらっている私も嬉しくなりました。)授賞式と祝賀会は銀座のとなりの日比谷の帝国ホテルでとりおこなわれます。石内はきっと着物でスピーチをするでしょう。そのときの着物にはどんな季節の文様が反映されているか、はたまた、どんな草履を選択して履いているのか。そこから始まる会話も楽しみにしつつ、自分も授賞式と祝賀会に参加したいと思います。一歩一歩を大事に歩んだあかしとして、石内都さん、この度は誠におめでとうございます。
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東京都中央区銀座4-8-12
銀座にまつわるさまざまなモノから見えてくる、銀座の、石内さんの、そしてあなたの物語です。
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石内 都
フォトグラファー
1947年、群馬県桐生市生まれ。神奈川県横須賀市で育つ。1979年に「Apartment」で女性写真家として初めて第4 回木村伊兵衛写真賞を受賞。2005年「Mother’s」で第51回ヴェネチア・ビエンナーレ日本館代表作家に選出される。07年より現在まで続けられる被爆者の遺品を撮影した「ひろしま」も国際的に評価され、13年紫綬褒章受章。14年にはハッセルブラッド国際写真賞を受賞。
05年、ハウスオブシセイドウにて「永遠なる薔薇 — 石内 都の写真と共に」展、16年の資生堂ギャラリーにて「Frida is」展を開催した。
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森岡 督行
1974年山形県生まれ。森岡書店代表。文筆家。『800日間銀座一周』(文春文庫)、『ショートケーキを許す』(雷鳥社)など著書多数。
キュレーターとしても活動し、聖心女子大学と共同した展示シリーズの第二期となる「子どもと放射線」を、2023年10月30日から2024年4月22日まで開催する。
https://www.instagram.com/moriokashoten/?hl=ja